エジプトで発見されるミイラの多くが、文字通り骨と皮だけで、いまにも朽ち果ててしまう寸前というイメージがあるが、実は中国には、2000年前に亡くなったにもかかわらず、筋肉や内臓、血液も残っており、おまけに肌もツヤツヤという、信じられない保存状態で発見されたミイラが存在する。漢王朝時代に湖南地方を統治していた利蒼の妻で、紀元前163年に50歳で亡くなったとされる、辛追という女性のミイラだ。中国史研究家の話を聞こう。
「辛追のミイラが見つかったのは1971年。場所は湖南省長沙市付近の山腹で、当時はまだ米ソ冷戦の真っただ中にありました。中国軍が労働者を使い、防空壕を掘っていた際に、広大な漢王朝時代の墓を見つけた。掘り進めると、多数の工芸品や装飾品などとともに、辛追のミイラが出てきたというんです」
労働者たちは発見したミイラを見て、腰を抜かすほど驚いたという。なぜなら、まるで生きているようなみずみずしい潤いを保ち、いまにも起き上がりそうだったからだ。
「ミイラ本体は絹製の布に20層以上ぐるぐると巻かれ、炭がぎっしり詰められた棺の中に安置されていた。バクテリアの侵入を防ぐための防水処置として、棺の周囲を粘土で封をして厳重に密閉されていたといいます。肌だけでなく毛髪やまつ毛も生え揃っていた。しかも筋肉が削げ落ちていないため、腕や脚の関節を折り曲げることもできたといいますからね。奇跡以外の何物でもありませんよ」
防空壕の建設作業はすぐに中止され、国際的な考古学者グループが派遣された。調査の結果、このミイラは死後2000年以上が経過しているにもかかわらず、内臓器官に損傷はなく、静脈内には血液も残っており、その血液型がA型であることも判明したのである。
とはいえ、いかに絹と麻のドレスで幾重に包まれ、地底深くに埋葬されていたとはいえ、ここまでの保存状態で発見されることなどありうるのだろうか。別の研究家が言う。
「専門家の見解によると、辛追の体を包んでいた絹は弱酸性の未知の液体に浸されており、それがバクテリアの繁殖を防いだのではないかとされています。さらに棺の中で微量の水銀が発見されたことで、これが抗菌剤として使用された可能性があるようだと。ただ、エジプトにもないこんな技術を、誰がいつ教えたのか。地球外生命体が古代の中国に現れていた、という説は根強いですからね。もしかしたら、宇宙人が特殊な技術を伝えた可能性もありますね」
まるで生きているかのような謎のミイラは、湖南省博物館に保存されている。
(ジョン・ドゥ)