そんな中、ロックオンされた次なるターゲットが熊本県にあった。半導体の受託生産で世界最大手「TSMC」(台湾)の新工場だ。ソニーグループと自動車部品大手のデンソーも加わる一大プロジェクトの総投資額は1兆円を超える。
「24年12月の稼働開始に向けて、従業員1700人が暮らす周辺施設の整備も進められ、台湾人の子どもたちが通うインターナショナルスクールも建設されている。ところが、その裏では中国の息のかかった日本企業の動きもキャッチされている。例えば、社員寮を管理する会社や家を建てる住宅メーカーとして参入できれば、従業員の名前、役職、家族構成、家のローンまでの情報を一網打尽にできる。優秀な外国人技術者を集める中国の『1000日計画』のために、引き抜き可能な人材探しも容易になる」(政府関係者)
半導体の開発競争に勝利し、次世代通信「6G」をめぐる通信覇権を手に入れる算段か。
先のウクライナ侵攻の影響で、世界各国から経済制裁を受けるロシアの諜報活動にも陰りは見られない。
「戦争の影響で8人の外交官が国外追放されましたが、残ったメンバーの活動に支障はありません。ロシア主催のイベントの開催こそ難しくなりましたが、相変わらず、展示会場やシンポジウムでの名刺交換をはじめ、対象者との接触を図っているようです」(勝丸氏)
ロシアの諜報組織は軍事情報専門のGRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)、最先端の産業情報専門のSVR(ロシア対外情報庁)、犯罪やテロ防止専門のFSB(ロシア連邦保安庁)の3つに分かれる。とりわけ日本で活動を活発化させているのがGRUである。
「弾道ミサイルの基幹部品にあたるICチップや炭素繊維を求めて、秋葉原にあるジャンク品売り場を物色している。ただし、経済産業省が定める『キャッチオール規制』の影響で輸出するのに手間がかかる。ロシア行きの貨物船がないから、北海道の漁船に金を払ってロシア近海まで運んでもらうそうです。要は、覚醒剤や拳銃の運び方と、なんら変わらない」(貿易関係者)
民生品を軍事転用する「デュアルユース(軍民両用)」は、弾道ミサイルに限らない。
「日本製の高性能カメラは軍事衛星やドローンにも活用される。その他、モーターやバイオ技術など軍事転用できるテクノロジーは山ほどある。スパイを取り締まる法律のない日本で摘発するのは極めて難しい」(山田氏)