一見、何の変哲もない図柄を水で濡らしたり、あるいは光を当ててみると、あら不思議、今までなかった絵や文字が浮かび上がる…という絵画がある。これは描いたの者がなんらかの意図を持ち、特殊な方法で細工したものだ。
大英博物館が19世紀に入手して以降、全く調査も展示もされず、ただ薄暗い倉庫に埋もれていた粘土板がある。これに光を当てたことで、3500年前に描かれた、世界最古の悪魔祓い儀式の幽霊画だったことが判明。考古学者の間で大きな話題になった。2021年11月のことである。
この粘土板は古代バビロニア時代のもので、浮かび上がる絵を発見したのは、大英博物館の中東部門の学芸員であり、楔形文字の世界的権威でもあるアーヴィング・フィンケル博士だった。
浮かび上がってきた絵柄は、腕を前に伸ばして歩いている髭を生やした幽霊と、その手首にロープを繋ぐ女性の姿。フィンケル博士いわく、これは「生者の世界に戻ってきてしまった幽霊をこの世から排除する、エクソシズムの儀式を描いたもの」だという。オカルト研究家が語る。
「粘土板の裏面にも、この絵に関する説明文が浮かび上がってきたのですが、そこには冥界に送り出すための悪魔祓いの手順が詳細に記されていました。この粘土板はおそらくエクソシストの家か、神殿にあった魔術書の一部だった可能性が高い、と推測されています」
ちなみに、記された悪魔祓いの手順はこんな具合だ。
〈まず男に普段着を着せ、旅支度を施し、女には4枚の赤い衣服を着せ、紫の布をまとわせる。そして、ゴールドのブローチを与え、敷物やタオル、櫛、フラスコなどを持たせ、日の出とともに太陽に向かって、ビールを注ぐカーネリアンの器やビャクダンを詰めたつり香炉などを用意し、太陽神シャマシュを呼ぶ呪文を唱えながら人形を埋める〉
そして最後は、
〈決して後ろを振り返ってはいけない〉
と締めくくられていた。前出のオカルト研究家が言う。
「つまりこの儀式は人形に幽霊を乗り移らせ、太陽神シャマシュの祝福を受けられるようにするもの。そのため、女は男の幽霊と結婚し、男を冥界へ連れて行く役割を担っていると考えられます。これは2人で一緒に冥界へと幸せに旅立つための、儀式の手順だというわけです」
フィンケル博士はこの発見を、著書「The First Ghosts:A rich history of ancient ghosts and ghost stories from the British Museum curator(最初の幽霊:大英博物館の学芸員が語る古代の幽霊と怪談の豊かな歴史)」で、メソポタミアに伝わる他の幽霊話とともに紹介している。興味がある方は一読してみてはいかがだろうか。
(ジョン・ドゥ)