観光庁はオーバーツーリズム(観光公害)が住民生活や自然環境に悪影響を及ぼす可能性があることから、急増する観光客に対処するための、先駆的な防止策を実施するモデル事業の実施地域を3月26日に選定した。
実施地域は北海道倶知安町のニセコエリア、東京都台東区の浅草、沖縄県竹富町の西表島など、全20カ所だ。ニセコエリアでは外国人スキー客の増加による交通機関の混雑に対処するため、営業区域外からの応援タクシーの活用、西表島では立ち入り制限エリアの導入による自然保護を実施する予定だとしている。
だが、これに渋い顔を見せるのが、沖縄本島の人達だ。インバウンドが回復してから1年余り。沖縄本島は今、その影響をあまり受けていないという。那覇市のタクシー運転手によれば、
「この冬はコロナ前よりも観光客が少ない、という印象を受けました。昨年10月に沖縄本島のタクシー初乗り料金が値上げされたんです。その影響でドライバーは増えたのですが、客は来ない。さらに値上げしたことで地元の人も乗りづらくなってしまい、商売上がったりです」
年間を通して温暖なので、沖縄には旅行者が常に訪れるイメージがある。なぜ、コロナ前に比べて外国人旅行客が減りつつあるのか。地元の観光業に携わる女性に話を聞いた。
「やはり、沖縄を代表する観光の目玉でもあった首里城の火災は大きいと思います。あの火災以降、外国人はおろか、国内からの修学旅行生も減りました。それに、日本の冬では定番の紅葉や雪、温泉など外国人が好きなものが、沖縄にはありません。冬にやることがない沖縄に、わざわざ来ようと思わないんでしょう」
沖縄の街中を歩くと、盛り上がって見えるのは「せんべろ系」をはじめとする飲食店のみ。しかしここでも、外国人観光客の姿はあまり見かけない。せんべろ居酒屋の従業員は、嘆くことしきりだ。
「外国人にはSNSで話題になったラーメン屋などが人気みたいで、あまり飲み歩かない印象です。せんべろ自体は盛り上がっていますが、正直、1000円なので単価は上がりづらい。外国人旅行者に期待して値段を上げると、日本人旅行者や地元の人の足が遠のいてしまいそうですしね」
観光の繁忙期にホテルの値上げをすることはできても、飲食店は難しい。ましてや沖縄の飲食店は今、インバウンド価格で値上げし、地元在住者が困惑している状態にある。コロナ前は国際通り周辺で外国人に向けた強気の価格設定をする店もあったが、コロナ禍でほとんど閉店してしまった。地元密着型観光地が抱える、永遠のテーマであろう。