「ファンが一人として勝つと思ってない」
そんなことを言われたら、競技に参加する意味すらなくなりそうだが…。
日本時間7月27日の開会式に先んじて、いくつかの競技の予選リーグがスタートしたパリ五輪。その中で、先陣を切ったのが「ラグビー7人制」だった。
約6万9000人が集まったサンドニのスタッド・ド・フランスで、日本代表は石田吉平キャプテンを筆頭にスピード重視のラグビーを目指したが、初戦のニュージーランド戦の序盤こそいい場面を作ったものの、最終的には40-12で力負け。3時間後のアイルランド戦は相手のフィジカルに圧倒される形で、40-5で惨敗を喫した。
日本が所属するA組の残る相手は南アフリカだが、南アは7人制W杯で王者に輝いたこともある強豪中の強豪。日本を応援するファンが「勝てるわけがない」とハナから諦めている相手だ。スポーツライターがため息をつく。
「2連敗して石田キャプテンは『ミスとかより、気持ちで負けていた。情けない試合だった』と反省の弁を述べましたが、はっきり言うと情けない試合に見えてしまうほど、力の差があるんです。特に今回、日本の入ったA組は組み合わせが決まった途端、ラグビーファンが一斉に『死の組』と言って諦めるほどでした。混戦という意味の『死の組』ではなく、本当に何をやっても勝てない相手ばかりという意味の…。やる前から諦めるのは情けないですが、そういう気持ちで開幕1、2戦を見ていたというのが事実です」
2試合を見たファンからは「相手はラグビー、日本は鬼ごっこ」「協会はもっとセブンス(7人制)に力を入れるべき」など、悔しさと怒りに満ちた声があふれたが、
「力を入れようにも、日本ではセブンスの人気がまったく上がりません。国内で国際大会を開催しても、無料入場でようやく会場が数千人埋まる程度です。負けるとファンは簡単に強化しろと言いますが、そういう人たちが実際にはお金を落としてくれませんからね…。資金が潤沢でないラグビー協会は15人制の強化で手一杯というのが実情です」
だが、その15人制は6月からのテストマッチ5連戦で1勝4敗とファンを失望させたばかり。ふがいない試合ぶりに加え、価格変動チケットの不評が足を引っ張り、各会場で集客に苦しんだ。
そんな、まさに良いところなしのラグビー界に追い打ちをかけたのが、五輪サッカーの開幕戦圧勝劇だという。
「同じ24日の深夜に五輪サッカー日本代表が南米の強豪パラグアイに5-0で圧勝しました。オーバーエイジ枠を使わず、若手の層の厚さとレベルの高さだけで勝ったわけですから本当に大したもの。ニュース的には7人制ラグビーの惨敗がかき消されましたが、おかげで日本代表の先陣を切ったのは世間ではサッカーだと思われています。裏を返せば、7人制ラグビーなど必要ないという印象をさらに強く持った人が多いということ」(前出・スポーツライター)
サッカーと比較すると、ラグビーは人気も世界との実力差も開く一方ということか。
しかし、五輪代表は残る南ア戦に敗れても順位決定戦での戦いが続く。もはや話題になることは難しそうだが、7人制代表が困難な戦いに挑んでいることを、ファンは重々承知している。なんとか1勝を挙げて、メンバーの笑顔を見たいものだが…。
(飯野さつき)