米テレビ界最高の栄誉とされる第76回エミー賞の授賞式がカリフォルニア州ロサンゼルスで開かれ、真田広之が主演、プロデューサーの時代劇ドラマ「SHOGUN 将軍」が作品賞や日本人俳優初の主演男優賞など、単一シーズンで歴代最多となる18部門の賞を受賞した。
「世界のクロサワ」黒澤明以来の快挙はもちろんのこと、視聴者がさらに驚かされたのが、授賞式で披露した真田広之のネイティブスピーチだろう。
真田は子役を経て、千葉真一主催のジャパンアクションクラブ(JAC)に所属。1978年に萬屋錦之介と千葉ダブル主演映画「柳生一族の陰謀」で本格デビューした。この映画のアメリカ版タイトルは「Shogun’s Samurai」で、今回の快挙の伏線のようである。
以降、1980年代、90年代は薬師丸ひろ子や小泉今日子との共演映画「里見八犬伝」「怪盗ルビィ」のほか、現在の放送コードでは再放送が難しいと言われる問題作「高校教師」などに主演。子供の頃に海外滞在経験や留学経験があるわけではない。
転機は葉月里緒奈との不倫、離婚騒動から2年後の1999年、39歳にしてイギリスの「ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(現在の同劇団理事長は、国王チャールズ3世)」に入団した。その後、日本人として初めて「リア王」の主演を勝ち取っている。
真田の英語の練習法は独特で、過去のインタビューなどによれば、
「監督や演出家が求めるセリフのトーンやニュアンス、イントネーションごと、忠実に覚えた」
真田は英会話を学ぶために渡英したわけではない。俳優として、英語を母国語とする俳優との演技を台無しにしないために、セリフの言い回しをトイレの中でも猛特訓したというのだ。
英語のセリフを聞きまくり、それを完璧に再現する練習の繰り返し。その結果、東洋人が演じるのは困難と言われる「リア王」役を射止め、真田独特のリズム感あるスピーチ、ネイティブのように早口なのに流暢な英会話を可能にしたという。
さらにロサンゼルスに移住後についても、同じくロス在住の桃井かおりの証言によると、
「(桃井も真田も)オーディションを受けまくった」
2003年にトム・クルーズ主演の「ラストサムライ」に出演後、「47 RONIN」や「アベンジャーズ/エンドゲーム」など、ハリウッド映画で順調にキャリアを築いてきたように見えるが、実際にはこの20年、オーディションを受けては演技と実績が認められる…の地道な努力の積み重ねだった。おかげで「ラストサムライ」の時には殺陣シーンで意見しても鼻であしらわれた真田が、ハリウッドの信頼を勝ち取ることができた。
ちなみにロスの自宅近くには桃井のほか、2013年に歌手生活を引退したアン・ルイスも暮らしており、アンの愛息・美勇士氏がインスタグラムで真田のエミー賞受賞を祝うコメントを寄せている。
(那須優子)