石破茂首相は11月21日までの南米訪問に合わせて模索していた、アメリカのトランプ次期大統領との会談を断念した。さすがにゴルフウエアではなかったが、トランプ氏が住むフロリダに行くための洋服も準備していたにもかかわらず、だ。アメリカ側も前向きだったのに実現しなかったことで、時事通信は「自信暗転 首相に痛手」と伝えたが、なぜか首相周辺は「安堵」している。
表向きの理由は、アメリカには民間人の外交交渉を禁じた「ローガン法」があり、就任前のトランプ氏が事実上の外交を展開すると、この法律に抵触する可能性があるというものだ。事実、アメリカ側は日本だけでなく、多くの国からの面会要請を例外なく断っている。
首相周辺が安堵するのは、この点にあった。官邸関係者が言う。
「仮に特定の国の首脳とだけ会い、石破首相が外されていたら、面子丸潰れとなる。『一律』に会わないということならば、国内向けの説明もつく」
トランプ氏は11月14日にフロリダの邸宅「マールアラーゴ」を訪れたアルゼンチンのミレイ大統領と会ったが、映像を見ると、挨拶を交わした程度だった。それよりも日本側が神経を尖らせたのは、韓国の存在だった。
なにしろトランプ氏との会談を狙おうと、駐米韓国大使がわざわざワシントンからフロリダに赴いていたのだ。ただ、この大使の行動はトランプ氏サイドのヒンシュクを買い、日本が心配するような「尹錫悦大統領が抜け駆けしてトランプ氏と会う」事態にはならなかった。
石破首相としては、トランプ氏が正式に就任する来年1月以降の早い時期の会談を模索することになるが、その1月には通常国会が召集される。ただでさえ日程上の制約がある上、少数与党のため、首相サイドの思い通りに国会の議事進行は進まない。政府内からは、こんな声が出ている。
「当面、トランプ氏は移民問題をはじめとする国内問題、ウクライナ戦争にかかりっきりとなる。慌てて会うよりも、日本国内の基盤を固めた方がいいのではないか」
さて、石破首相はどう動くのか。
(田中紘二/政治ジャーナリスト)