「殿ご乱心」で日韓関係は悪化へと逆戻りする公算が高くなった。韓国の尹錫悦大統領が突然、戒厳令を宣布し、失敗に終わった。12月7日の弾劾訴追案は与党議員の多くが退席したことで不成立となったが、尹大統領は早晩、退陣に追い込まれるのは確実だ。
朝鮮問題に詳しいシンクタンク、国家基本問題研究所の西岡力企画委員は尹大統領の動機について、次のように解説した。
「自分が国のために尽くしているのに野党に妨害され、その背後には北朝鮮がいて、このままでは韓国は亡びるとの妄想にとらわれ、軍を使って国会を無力化しようとした。『殿ご乱心』だった」
このままでは、野党第一党「共に民主党」代表の李在明氏が次期大統領になる可能性が高いと、西岡氏はみている。李氏は日本を「敵性国家」と非難してきた人物。西岡氏は文在寅政権の時と同じように「日韓関係が悪化する可能性が高い」と分析する。
尹大統領は国内はともかく、日韓関係の改善には尽力した。昨年3月に来日した尹大統領と岸田文雄首相(当時)は、連れ立って東京・銀座を訪れている。まず大正13年創業の老舗で1時間半近くビールと日本酒を酌み交わしながらすき焼きを食べ、最後は稲庭うどんで締めた。最初は夫人同伴だったが、飲み足りなかったのか、2人だけで二次会に出かけている。尹氏の好物というオムライスのほか、とんかつ、ハンバーグ、ハヤシライス、チーズを注文し、ビールと焼酎を飲んで約50分、滞在した。
尹大統領は日本の有名な食べ歩き番組「孤独のグルメ」のファンだという。韓国内で味方であるはずの与党からも見放された尹大統領は、「本当の孤独」を味わっていることだろう。
(奈良原徹/政治ジャーナリスト)