それはどういう理由だったのか。役柄の交代には、単にスケジュールだけでない奥深い事情が見え隠れする。あの名作の、意外なチェンジをここに!
〈『K独のグルメ』のドラマ化の話が来たが、主演が長嶋一茂ということなので、丁重にお断りする。長嶋一茂は嫌いではありませんが、ちょっと〉
深夜の“夜食テロドラマ”としてコアな人気を誇る「孤独のグルメ」の作者・久住昌之氏が、10年にツイッターに書いたものだ。12年に始まったテレビ東京版のドラマでは、主役の井之頭五郎を松重豊が演じ、シーズン5まで続くほどの当たり役となった。
冒頭の依頼とはフジテレビからのもので、主役のイメージが原作者と合わず、みすみすヒット作の権利を逃してしまっている。どう考えても、一茂に井之頭役はマッチしないのだから当然の判断であろう。
さて、今なおシリーズが続いている「仮面ライダー」(71年、NET系)の第1作は、藤岡弘が演じたことは言うまでもないが、別のプランもあったという。
「もともとは『十字仮面』というのが原案で、前年に『柔道一直線』(TBS系)で人気を得た近藤正臣が主演の本郷猛役に内定していました。ところが、制作日程が折り合わず、藤岡に交代。番組自体のコンセプトも『仮面ライダー』に変更になりました」(特撮ライター)
藤岡は撮影中の大ケガで一時的にライダー役を離れる。そして2号の一文字隼人役として佐々木剛が抜擢されたが、もう1人の候補が三浦友和だったというから驚きである。
さて、萩原健一と水谷豊のコンビで鮮烈な印象を残した「傷だらけの天使」(74年、日本テレビ系)だが、水谷が演じたショーケンの弟分・アキラには火野正平が予定されていた。
「すでに売れっ子だった火野のスケジュールが折り合わず、松田優作が旧知のプロデューサーに『いいのいるよ』と紹介したのが水谷だったそうです」(シナリオライター)
以来、優作と水谷は親友の間柄が長く続いた。
高倉健が新境地を開いた「新幹線大爆破」(75年、東映)は、日本初のパニック大作と評価されるが、当初、主演に予定されたのは菅原文太だった。
「これは役者じゃなく、新幹線が主役の映画じゃないか」
文太はそう言って断ったが、健さんの解釈は違う。
「この脚本はおもしろい。ぜひ出させてもらいたい」
大スターが後輩の代役にも不満を漏らさず取り組んだのである。
同じ東映組でも、渡哲也が病気療養で途中降板したNHK大河ドラマ「勝海舟」(74年)を引き継いだ松方弘樹は違っていた。
「NHKはモノを作るところじゃない」
最後まで不満タラタラだったが、ここで共演した仁科明子(現在は亜希子)と不倫から再婚へと発展している。
不祥事による交代は、現在の高畑裕太を見てもわかるが、中村獅童は飲酒運転事故で「ハゲタカ」(07年、NHK)を降板し、松田龍平に交代。獅童は岡本綾との不倫も発覚し、竹内結子との離婚につながった。
8月にテレビ復帰を果たした極楽とんぼの山本圭一(現在は圭壱)は、06年に起こした未成年への暴行で吉本を解雇され、出演予定のドラマ「東京タワー~オカンとボクと、時々、オトン~」(フジテレビ系)を放送延期に追い込み、同じお笑い芸人の塚地武雅を代役に立てることで、ようやく放映。まさしく、「高畑裕太のルーツ」である。