東京女子医科大学(東京都新宿区)の新校舎建設工事をめぐり、警視庁捜査2課は1月13日、背任の疑いで元理事長の岩本絹子容疑者=江戸川区東葛西=を逮捕した。建設工事で不正支出された1億1700万円の一部を、自身に還流させていたとみられる。
捜査2課は昨年3月、大学の同窓会組織「至誠会」から勤務実態のない元職員に不正に給与が支出された疑いがあるとして、大学や岩本容疑者宅を家宅捜索。関係先からは「金塊2キロ」「スーツケースに入った現金1億5000万円」が押収されている。
報道によれば、理事会や教授会、卒業生、職員が「岩本元理事長は東京女子医科大学創業者一族の曾孫という縁故者。逆らえなかった」「岩本元理事長の独裁状態だった」と被害者ポジショントークに終始している。だが女子医大の事件は、今に始まったことではない。
筆者は2001年に東京女子医大病院の就職面接を受けたが、面接担当の医師、師長、事務方が、看護学生を次のように恫喝していた。
「ウチはねぇ、ボランティアで医療やってんじゃないんだよ。儲け出すために病院やってんの。それが理解できない看護学生はいらないんだよ」
当時の筆者は知るよしもなかったが、東京女子医大ではその頃、子供の「術中死」「不審死」が相次いでいた。のちの取材で「大学に寄付金を払えば、新しく導入された最先端の人工心肺での手術の順番を優先する」と持ちかけられ、田畑を売って寄付金を上納していた遺族がいたことも判明する。
相次ぐ術中死の中で、当時12歳の患者が人工心肺の操作ミスにより、術後3日目に死亡した事故が、翌2002年に刑事事件として立件された。操作ミス、手術ミスを隠蔽するためにカルテを改竄した同僚医師も逮捕され、有罪判決を受けている。
女子医大に勤務する医師、看護師の全てが不正をしているわけではないが、時代錯誤の圧迫面接は、医師や師長が恫喝すればカルテを書き換える「従順な奴隷」のみを選抜するためだろうと、合点がいった。
この事件を機に、岩本容疑者が逮捕されるまでの23年間、新聞社、出版社には次々と「タレコミ」が相次いだ。
2011年夏には大学構内で火災が起きたが、病棟の火災報知器は故障。患者に避難誘導はなされなかった。
2014年のSTAP細胞の論文不正と株価操作のインサイダー疑惑事件は、理化学研究所の調査で女子医大の主導と判明。同年、子供への投与が禁止されている麻酔薬プロポフォールを2歳児に使用して死亡させた「プロポフォール事件」が起き、厚労省から特定機能病院の資格を取り消された。ここで再建に担ぎ出されたのが、創始者一族の岩本容疑者だった。
ほかにも教授と愛人看護師の隠し子疑惑、医療機器メーカーのキックバック疑惑、裏口入学疑惑、患児家族への金銭要求疑惑…医療界の疑惑のデパート、それが東京女子医大の伝統だ。
中でも衝撃的だったのが2005年、筆者と一緒に手術見学したN大学、J大学の外科医と今も語り草になっている「実習中の女子学生が、手術中に手術室の中で化粧直しした事件」だ。
手術は世界的に有名な教授の執刀によるもので、他大学の外科医も見学したが、そんな衆人環境の中で女子学生が白衣からコンパクトを持ち出し、ファンデーションとマスカラを塗り直し始めた。指導担当者、オペ室看護師、医師の誰もそれを注意しないどころか、助手を務めた男性外科医が手術後にその女子学生を夕食に誘っていた。後日、化粧直しをしていたのは、中国地方の有名病院の跡取り娘だったと知る。
なお、女子医大の学費は6年間で4600万円と、国内の私立医学部では川崎医科大学の4700万円に次いで2番目に高く、入学時の寄付金を含めれば5500万円を超える。
元理事長が逮捕された日本大学への私学助成金交付は2021年以降、3年連続でストップしているが、同じく元理事長が逮捕された女子医大には2023年度まで、私学上位トップ10に入る20億円もの助成金が支払われている。
(那須優子/医療ジャーナリスト)