既に三役の実力はある――。NHKの解説者からお墨付きをもらったのは、東前頭筆頭の王鵬だ。この初場所も好調で、2日目には小結・若隆景を押し出しで破り、まったく寄せ付けなかった。相撲ライターが言う。
「気迫あふれる取り口です。王鵬の父は元関脇の貴闘力、祖父は大横綱の大鵬ですが、物怖じしない性格で、スケールの大きさといい、2人のいいところが出ている。今場所は綱取りの両大関がクローズアップされていますが、優勝は無理にしても、三賞くらいは取れそうな勢いです」
祖父の大鵬は「巨人、大鵬、卵焼き」と言われ、日本の高度成長期期の流行語にもなったほどだ。
「子供に人気があるものを挙げた言葉ですが、巨人も大鵬も強かった。勝つのが宿命というか、当たり前だった。逆に言えば、双方ともに血を吐くようなトレーニング、稽古をしていたということです」(前出・相撲ライター)
毎日、四股を500回踏み、名だたる大関、横綱を並べてひとりで相撲を取り、負けなかったと言われる。相撲ライターが続ける。
「大鵬には、連勝がストップした苦い思い出がある。1969年の春場所です。戸田の押しに後退したものの、回り込んで土俵際、突き落とした。戸田の足は、蛇の目の砂を大きくはねました。大鵬はというと、正面に落ちていった。行司は大鵬の有利とみて、軍配を上げたんです。当時はまだビデオが導入されておらず、控えの高鉄山も戸田の足が出たと主張したのですが、5人の審判が行司軍配を覆したんです。この取り組みは世紀の誤審と言われ、連勝は45でストップした。大鵬は翌日から連勝するのですが、よほど連勝ストップがこたえたのか、その後に休場してしまいます」
誤審がなければ休場はなく、どこまで連勝が続いたかわからない。それほどの大記録だった。
今場所の王鵬は、そんな祖父に迫ろうとする勢いがある、ということだろう。
(蓮見茂)