本来、橋下市長のムチャな要求をはねのけるはずの労働組合も現在は静観している。大阪市役所には、連合系の大阪市労働組合連合会(7単組で構成)や全労連系の大阪市役所労働組合など複数の労組がある。目下、対応を検討中のようだ。
しかし、その間にも橋下市長は労組に対して、次々とジャブを放っている。
「自分が労使交渉に出席する」と言ったかと思えば、市議会で庁舎内に事務所を構える労組に退去勧告をした。そして、冒頭の演説である。労組は最大のガンとでも言わんばかりである。
大阪市役所労組の幹部はこう話す。
「退去要求が単に家賃の優遇問題だけで言っているとしたら、これは問題です。憲法で保障されている団結権の問題だけにとどまらず、労使交渉やらの事務効率にも影響が出るのは確実で、担当部局も困るはずです。給与の減額に関しても、現業職員からは『人にはやれない仕事を公共サービスとしてやっている。それを単純に民間と比較して減額する』というのは殺生だという声も上がっています」
どこか奥歯に物が挟まったような言い方なのも、橋下市長の術中に陥ることを避けたいがためだろう。
府知事就任時に橋下市長は職員に向かって、「皆さんは破産会社の従業員だ」とどやしつけ、既得権にしがみつく公務員を敵に見立てた。例のパフォーマンスの標的にされたくないのだ。 しかし、この手法自体が大問題である。大阪自治体問題研究所主任研究員の木村雅英氏が話す。
「職員の給与をカットしてでも住民サービスを守るということはありうる話です。しかし、労組との交渉をしないうちから、『公務員の給与の原資は税金。その使いみちなのだから、職員は黙っていろ』と言わんばかり。組合が賃下げに応じる可能性だって、あるわ けですからね。何もかも自分が決するかのようなふるまいは、まさに『ハシズム』ではないでしょうか」
そして、橋下市長が断行する公務員給与や補助金のコストカットには、もう一つの問題点があるという。
前出・木村氏が続ける。
「市が行う事業の末端には多くの非正規雇用の職員が存在します。例えば、市営地下鉄の清掃業務は競争入札で、どんどん賃金が下げられ、清掃員には生活保護を受給している人もいます。市に直接雇用されている職員でも非正規雇用が3割を超え、年収200万円以下は珍しくありません。ワーキングプアの人たちの労働環境を整備することなく、公務員やそこに連なる事業者を同じように『富める者』として扱うことには、違和感を覚えざるをえません」
橋下市長がコストカット策を強行すれば、地下鉄の清掃員が野垂れ死にする可能性だってあるのだ。
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