東京ヤクルトスワローズから、球団マスコットの「つば九郎」の担当者だった社員スタッフが急死したことが発表された。春季キャンプにも参加していたものの、沖縄から帰京する際の空港で倒れ、病院に搬送されるも、帰らぬ人となったという。
1994年から活動を開始したつば九郎は、およそマスコットとは思えないような自由奔放すぎるキャラクターで人気を博した。声を発することはできず、セリフは全てスケッチブックによる筆談。その内容が、時にはブラックユーモアあふれるギリギリのイジりを見せるため、他球団のファンを巻き込むほど面白がられ、支持された。本来はツバメをモチーフにしたマスコットなのに、ルックスがペンギンに似ていたことで、ネットスラングの「ぐう畜(ぐうの音も出ないほどの畜生)」から「畜ペン」と呼ばれていた。
つば九郎が遺した珍言やエピソードには事欠かない。
対ソフトバンクの2015年日本シリーズ時、その日の中継を担当するフジテレビの「めざましテレビ」に朝から出演し、「やくるとはしょうりがほしい ふじてれびはすうじがほしい」と、低視聴率にあえぐフジを盛大にイジった(フジは株式会社ヤクルト球団の株式20%を持つ大株主)。
2017年、ロッテとの交流戦で、当時リーグ5位だった巨人の亀井善行が、前打者マギーを3打席連続敬遠された後にサヨナラホームランを放って男泣きした翌日、「ゆうしょうしたときみたいなかめいくん なんいだとおもってる?」と煽った。なお、ヤクルトは当時リーグ6位だった。
あるいは2018年、西武から巨人に移籍した野上亮磨の先発日、野上の妻である元モーニング娘。の石川梨華を引き合いに出して「ぐっどもーにんぐ むすこのつばくろうです」と登場。キャッチボール中の野上の前でモー娘。の楽曲「恋愛レボリューション21」を踊った。翌2019年にも、ヤクルトから日本ハムに移籍し、元モー娘。の紺野あさ美と結婚した杉浦稔大の前で、関係のない「YMCA」に乗せて「恋愛レボリューション21」のダンスを披露した。
さらにさらに、2022年にヤクルトが交流戦で優勝した際、「ゆうしょうしょうきんはねっとかじのでばいにする」と発言(当時、山口県阿武郡阿武町で給付金の誤送金が発生し、送金を受けた男がネットカジノで大部分を使う事件が起きたばかりだった)。
そして今年2月1日、「スカパー!フジテレビONE」のヤクルトキャンプ中継で、インタビュー後がちょうどCM入りするタイミングだったため、「ACへ」とスポンサーの撤退が続出していたフジテレビを皮肉っている。
ヤクルト担当記者が語る。
「ただし、そんな『ぐう畜エピソード』だけではなく、球団や選手、ファン、そして野球への愛情は本物でした。2021年の日本シリーズで、ヤクルト一筋のベテラン石川雅規がシリーズ初勝利とセ・リーグ最年長勝利を記録した際には、感極まって石川と抱き合っています。そういうマジな姿と、時事ネタに絡めたお笑いのバランスは唯一無二でした」
ヤクルトはつば九郎の今後について「しばらくの間休止となることをお知らせします」と発表。マスコット続行か否かについても明言していない。球団だけでなく、球界全体にとって、かけがえのない存在であった。