「リベンジ」と「八冠復帰」はならなかった。将棋の第10期叡王戦本戦トーナメント準決勝で、藤井聡太七冠が糸屋哲朗八段に100手で敗れ、失ったタイトルの奪還は来年以降に持ち越されることに。
これまで2人の対戦成績は、藤井の8連勝。対局前の下馬評では藤井勝利が圧倒的だったこともあり、まさかの番狂わせとなった。
相手棋士の研究が進み、最近の過密スケジュールが影響しているのか、かつての勢いに翳りが見えてきた藤井。昨年2月に「2181」だったレーティングは「2112」まで落ち込んでしまった。2位・永瀬拓矢九段の「1956」と比べると、まだまだ圧倒的な差があるものの、わずか1年で「69」も下がるとは…。
そして再び「八冠」の称号をまとう可能性について「八冠は二度とない」という声が散見されるように。いったい、なぜなのか。これには叡王戦の成り立ちを今一度、振り返る必要がある。
叡王戦は2016年にドワンゴ主催により、一般棋戦として第1期が開始され、2017年度の第3期からタイトル戦に昇格。主催が新聞社・通信社以外のタイトル戦は史上初で、契約金の額による序列は竜王戦・名人戦に次ぐ第3位となった。
ところが2020年に豊島将之九段が藤井を破ると、その直後にドワンゴが撤退を発表。第6期から不二家と日本将棋連盟の共同主催となった。
近年は藤井人気により叡王戦がクローズアップされるが、決勝に藤井の名前がなければ、話題性が失われるのは間違いなかろう。新規参入した不二家がいつまで将棋連盟と歩みをともにするか。あるいは他のオフィシャルスポンサーが一気に離れる可能性も否定できない。
叡王戦では決勝の五番勝負に250万円を払えば、1人限定で「見届人」になることができるという、独自の制度がある。対局立ち会いや棋士・女流棋士による解説・指導のほか、将棋めしが振る舞われるため、30倍近い競争率になるというが、これも今では藤井ファン向けの要素が強く、今後の応募状況が気になるところだ。
「わりとマジで叡王戦が消滅しそう」という将棋ファンの杞憂が現実になれば、藤井は最初で最後の「八冠棋士」になるかもしれないのだ。
(ケン高田)