デビュー直後の29連勝快進撃も記憶に新しい藤井聡太。あれから3年余り、その進化はもはや「異次元」レベルと評される。最年少タイトルに挑戦した藤井の強さの秘密はどこにあるのか。「7つのファイル」をひもとくと‥‥。
デビュー以来、怒濤の快進撃を続けてきた藤井聡太七段(17)への注目度が一気に高まっている。きっかけは渡辺明棋聖(36)に挑んだ「ヒューリック杯棋聖戦」で2連勝を果たし、初タイトル獲得に王手をかけたからだ。
五番勝負を終える7月中にあと1勝すれば、屋敷伸之九段が保持する18歳6カ月のタイトル獲得の最年少記録を大きく更新することになるため、3年前の29連勝を彷彿させるフィーバーが再燃しているのだ。将棋関係者によれば、
「初タイトル挑戦直後の対局となった7月1、2日の第61期王位戦七番勝負の第一局では、藤井が木村一基王位(47)に95手で圧倒。先手の藤井七段が得意としている『角換わり』で積極的な攻めを見せ、木村王位がそれを受けて立つ形でスタートしました。中盤以降で藤井七段が優位に立ち、徐々に一方的な戦局に推移していきます。最後は『千駄ヶ谷の受け師』の異名を持つ木村王位が粘りを見せましたが、ひるむことなく押し切る形となった。会場が藤井七段の地元・愛知だったこともあり終始、泰然としていましたね」
史上最年少のプロ棋士デビューから数々の最年少記録を塗り替えてきた、その強さの秘密は6月28日の棋聖戦にも存分に表れていた。とりわけ、渡辺も意表を突かれる形となった第2局での四十二手目の「5四金」の指し口について、最年少タイトルホルダーで立会人を務めた屋敷九段も「【1】セオリーを超えた新しい手を指す積極性がすばらしい」と称賛の声を惜しまない。
「セオリーではない手に控え室でも驚きとどよめきの声が上がりました。駒を取りにいく手で強い手ですが、守りが崩れて相手に攻め込まれるおそれがありますので、実戦では非常に指しにくいものだったと思います。形に違和感がありますので、よほどの確信がないと自分自身も指しづらくなります。結果的に、勝ちにつながったので大成功です」
この「5四金」は本来、守りを担う「金」が突如、攻撃に転じて前に出るという想定外の一手だったのだ。これには「魔王」の異名を持つ渡辺も動揺したのか、右手で眼鏡のフレームを触る様子は、指すなりすぐに席を立ったポーカーフェイスの藤井とは実に対照的に映った。屋敷九段が続ける。
「渡辺九段も手の一つとしては想定していたと思います。意表を突かれたとはいえ、経験値で対応していくものですが、『何を意図しているのだろう』と考えていく中で対応が難しくなったのでしょう」
衝撃はまだ続く。中盤の勝負どころである58手目には「3一銀」というAI粉砕クラスの妙手が指された。これには、同業者からも驚きの声が上がったほどだ。
「20年の世界コンピューター将棋オンライン大会で優勝した『水匠2』の開発者・杉村達也氏が自身のツイッターに〈将棋ソフト(水匠2)に6億手読ませると突如最善手として現れる手だった〉と投稿するほど深い読みの必要な一手でした。それをわずか23分で指した藤井七段のひらめきはAIをも凌駕しているともっぱらです」(将棋ウオッチャー)
デビュー当初からAIを駆使した研究を指摘されてきた藤井だったが、もはやAI超えの「必殺技の披露」はなにも今回に始まったわけではなかった。将棋ウオッチャーが胸を躍らせて言う。
「19年には新手や妙手を指した棋士に与えられる升田幸三賞を受賞しています。今後も中原誠十六世名人の『中原囲い』や塚田泰明九段の超急戦法『塚田スペシャル』のような将棋界のトレンドとなるオリジナルの妙手に期待がかかります」
新技の開発でもすでにトップクラスの実力を誇るというのだ。
(アサヒ芸能7月16日号に掲載)