とかく、現代将棋の申し子とも言うべき藤井に関しては「AI活用」ばかりが喧伝されているが、実際には「研究会」と呼ばれる対局によって研鑽を積んできたことは、知る人ぞ知るエピソードだ。藤井と同時にプロに昇格した唯一の同期・大橋貴洸六段が解説する。
「プロの前段階である奨励会の頃からAIを活用されていたと思います。評価値が目に見える合理的な指し口や読み筋を参考にしているのでしょう。ただ、AIだけに頼りすぎてしまうと将棋が弱くなるケースがあります。複数人で集まって対局する研究会やそれを一対一で行う『VS』での練習対局で、テーマを持って人を相手に指すトレーニングとうまく併用していく必要があります」
この研究会での「VS」は棋士としての上達には欠かせない。そればかりか、「秘密サークル」よろしく、対人間でも実戦さながらの問題設定と解決のプロセスを繰り返すことで経験値をより積み上げていくことになる。それによって、将棋の精度を磨くことにつながるのだ。
「特に藤井七段の場合は、【2】永瀬拓矢二冠との『VS』で修行を積んでいるようです。研究会は先輩棋士が後輩棋士を誘うことが慣習なので、おそらく永瀬二冠が藤井七段を誘って開かれているのでしょう。探究心の塊である永瀬二冠との実戦はお互いに得るモノの多い練習対局になっていると思います。実際に二人とも勝ちまくっているので、成果は表れています」(屋敷九段)
さらに、藤井人気にあやかろうと、テレビ局も引っ張り出しに躍起になったことも追い風となった。【3】「AbemaTV」で非公式の実戦鍛錬により、実力は飛躍的に伸びたという指摘もされている。
プロデビュー戦からわずか半年の17年4月に、AbemaTV主催の「炎の七番勝負」で羽生善治永世七冠(49)や佐藤康光将棋連盟会長(50)などトップ棋士7人とのドリームマッチが実現した。さすがに藤井の全敗も予想されていたが、
「トップ棋士7人と対局して6勝1敗の戦績を残しました。非公式戦とはいえ、皆さん公式戦同様に準備をして対局に臨んだと思います。それだけに、タダ者ではない若者が将棋界に現れたと世間に知らしめることになりました」(屋敷九段)
大金星の勢いそのままに「29」という公式戦最多連勝記録を樹立し、藤井フィーバーとなったのは記憶に新しいところだろう。
(アサヒ芸能7月16日号に掲載)