伝記映画の出来・不出来は見た目が大きく作用する。専門家たちをうならせた生き写し作品の数々を紹介しよう!
まず、音楽・映画評論家の村尾泰郎氏が、真っ先に挙げたのが、「ラブ&マーシー」で若き日60年代のブライアン・ウィルソンを演じたポール・ダノ。
「見た目よりも、雰囲気をよく捉えていました。売れっ子作曲家としての自信とは裏腹に、精神が不安定で壊れやすそうな感じが似ていました」
黒人女性3人組のボーカルグループ「シュープリームス」をモデルとした「ドリームガールズ」(07年)で、カーティス・テイラー・ジュニアを演じたジェイミー・フォックスを激推しするのは、「ダイノジ」の大谷ノブ彦氏。
「伝説のレコードレーベルと言われる『モータウン』の創始者、ベリー・ゴディをモデルにした役柄ですが、インチキくさいキャラがめちゃくちゃそっくりでした(笑)。イメージ通り、女性にルーズで、お金のために人種の壁を越えて音楽を売りつけていく、たくましい感じがよかったですね」
そんな雰囲気やキャラクターばかりではなく、見た目のそっくり加減では〝ロック界の女王〟ことティナ・ターナーの自伝を描いた「TINAティナ」(93年)は忘れられない映画だ。主人公のティナを演じたのが、当時売り出し中の若手女優であったアンジェラ・バセット。その熱演ぶりもさることながら、もともと声量に自信があったというバセットの歌唱シーンはまさにウリふたつ! ご本人登場かと錯覚しそうな声色はそっくり度100%だ。その功績が称えられ、バセットは第51回ゴールデングローブ賞で主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門)を受賞している。
一方、狂気じみた雰囲気に加え、公開直後から〝本人そのもの〟との評判を得たのが、「ドアーズ」(91年)で主人公のジム・モリソンを演じた、ヴァル・キルマーだ。撮影前に歌と演奏を徹底して覚え、吹き替えなしで演じた音楽シーンは圧巻の一言。顔つきだけでなく追っかけのグルーピー女たちを次々に魅了するセックスシンボルとしての魅力も兼ね備え、もはやCG超えの憑依ぶり。「トップガン」アイスマン役でも人気だったキルマーは今年4月に65歳で惜しまれつつ逝去! 合掌。
他にも、「ランナウェイズ」(11年)でジョーン・ジェットを演じたクリステン・スチュワート、「ホイットニー・ヒューストン」(22年)でホイットニーを演じた、ナオミ・アッキーなど、伝記ロック映画をもり立てるクリソツ役者たちの憑依力にただただ感服するばかりだ!