昭和プロレスマニアで、しかも新日本プロレス信者だった私のような人間にとって、「格闘王」こと前田日明の存在はアントニオ猪木、藤波辰爾、長州力、初代タイガーマスク(佐山聡)らと並ぶ、時にはそれ以上に憧れの存在だった。
そして多くの同志がそうだったように「UWFこそ真のプロレス」と信じ、テレビゲームのファイヤープロレスリングで対戦する際は、前田をモデルにした冴刃明ばかり使っていたものだ。
そんな憧れの前田が4月26日の「しくじり先生 俺みたいになるな!!」(テレビ朝日系)に「先生」として登場し、不良だった少年時代や、新日本プロレス時代に起こした「しくじり」の数々を語っていた。
例えば高校1年から通い始めた空手道場で初段を取得した際、同じ道場に通う先輩にこう言われた。
「空手の初段なんてもんは、自動車免許で言ったら仮免や。仮免にはな、路上教習があんねや」
そして大阪のミナミに呼び出され、毎週のようにストリートファイトをさせられた、なんていう話が。
あるいは当時、父親に買ってもらったバイクに乗っていた前田が、検問で交通機動隊10人を相手に、ひとりで大立ち回り。新日時代に起こした「親睦会が開かれた旅館で泥酔して大暴れした結果、旅館を一棟丸ごと破壊した」とか「タッグマッチでのカットの際、対戦相手の長州力の顔面にキックを入れて大ケガを負わせ、新日本を解雇された」などという、ファンならばよく知る(そして当事者によって微妙に話が食い違う)エピソードも。そうした数々の仰天話が、前田本人の口から語られたのだった。
イレギュラーだったのは、「先生」の横に解説役として勝俣州和がいたこと。勝俣が大のプロレスファンであることは、よく知られた事実。「アメトーーク!」(テレビ朝日系)などでプロレス特集をやると、必ずと言っていいほど出演している。なので違和感というほどではないのだが、おそらく前田ひとりだと放送禁止用語やら差別用語なんかを口にしてしまって、編集が大変になるからではないか、と。
個人的に、前田のいちばんの「しくじり」といえば、「午前0時の森」(日本テレビ系)のパイロット版に出演した際のものだ。グラビアアイドルに向かってセクハラ発言を連発した挙句、ヒップの大きな女性を表現するのに南アフリカの先住民を指す蔑称を使い、大炎上したことだと思っている。前田らしい愛すべきエピソードなのだが、時代はそれを許してくれないようで、その後しばらく、テレビで前田を見ることはなかった。
今回、間違いなくこの一件に触れるかと思って期待していたのだが、「続く後編はABEMAで」の宣伝で、番組は終了してしまった。前田アニキのために、有料コンテンツにお金を払うか…目下、悩み中。
(堀江南/テレビソムリエ)