田中はメジャーデビューした昨年、前半戦だけで18試合に投げて12勝4敗とハイパースで勝ち星を稼いだが、7月に右ヒジに異常を訴えると、PRPという治療方法を選択。血流の悪い靭帯はほとんどの場合、自然再生しないが、そこに血小板を注射することで再生を促す処置を施した。復帰後2試合に登板したが完調には遠く、今季は右ヒジへの負担を減らすべくツーシーム主体の投球スタイルへの変更を試みたのだった。
「中5日、中6日の休養が取れないならばと、それに代わる負担減の投球法を考えたようですが、マー君レベルのツーシームはメジャーの一線級には通用しません。これまでのように150キロ超の直球を見せておきスプリットで勝負するというパターンを使わねば勝てないでしょう。でも直球以上にスプリットの腕振りはヒジに負担をかける。レッドソックス戦ではその直球を見せることができなかったため、ストライクゾーンからボールになる伝家の宝刀に引っ掛かってくれなかった。今後、どうするんですかね」(スポーツライター)
メジャー通算216勝で、田中と同じくスプリットを武器にしていたカート・シリング氏は「直球とスプリットでは腕の角度が違っていて球種がバレていた」と分析したが、どの球種でも腕の振りが同じであることが長所だったのに、球種によって角度が違っているのも危険な兆候と言える。
さらに、ある現役メジャーリーガーは、こう言って田中を心配した。
「私もトミー・ジョン手術の経験があるが、知らないうちに痛さをカバーしていてヒジが下がってきたのが、その兆候だった。次はフォーシームがツーシームのような回転になり始める。そうなると打者からも見やすいし打たれる。そうなる前に手術に踏み切ったほうがいいのではないか」
田中自身は「結果に納得はしてない。徐々に状態を上げている」と周囲の不安を必死になって打ち消しているが、ヤンキースのブライアン・キャッシュマンGMや首脳陣も「異変」には気がついている。だが7年総額170億円の投資をした球団側からすれば、みすみす手術を断行して回復までに必要となる1年から2年をムダにしたくない。ただし、その一方で、
「GMは『早くメスを入れて、我々を安心させてほしい』と、本音を口にしている。内容が伴わない投球を見るにつけ、ますますその思いを強くしています」(球団関係者)
巨額契約ゆえに慎重に田中の右ヒジを見守っているというのが実情であり、しかも先発陣が崩壊しているチーム事情にあって、田中がいなくなれば先発ローテーションを組めなくなる。
「もちろん手術しても年俸はそのままマー君の懐に入るし、球団も保険をかけているので損失はありませんが、投資のミスは誰かが責任を負わねばならなくなる。また、マー君が手術でグラウンドやテレビから姿を消すことになれば、CMなどにも問題が出ます。手術に簡単に踏み切れない事情もあるんですよ」(スポーツライター)
事情はあれど、もし右ヒジがパンクすれば「なぜ昨年7月の時点で手術を断行しなかったのか」「なぜ大型の投手補強をしなかったのか」という責任論も浮上してしまうだろう。田中の右ヒジは、もはや個人で判できる状況にはないのだ。