夏の旅行やレジャー、帰省などでお出かけする機会が多くなる季節です。しかし、外出の際に「尿漏れ」や「頻尿」が心配だという方、実は意外に多いのではないでしょうか?
「尿漏れ」は、自分の尿意とは関係なく、尿が漏れてしまうことです。「人に言うのは恥ずかしい」と、ひそかに悩んでいる人も少なくありません。子供を産んだ女性に多く見られ、成人女性の3人に1人は尿漏れを経験しているとの報告がありますが、男性でも高齢になると生じることが多く、尿漏れは男性にも関わる問題だということに注意しなければなりません。
尿漏れが頻繁に起きるようになると、パッドが手放せなくなるうえに、「恥ずかしい」「漏れた尿のニオイがするのでは」といったことが気になり、外出するのがおっくうになります。そうして家に引きこもりがちになると、全身の運動量が減るため、筋肉が徐々に衰えていきます。筋肉の中には、「骨盤底筋」と呼ばれる、排尿機能に関わる重要な筋肉がありますが、出産や加齢によって衰えた「骨盤底筋」が、運動量減少によりさらに衰え、尿漏れがひどくなるという悪循環をたどります。
さらに尿漏れには、夜間に何度もトイレに行きたくなる「夜間頻尿」を伴うことがあります。実はこれがクセモノなのです。東北大学医学部泌尿器科の研究チームは、「夜間、トイレに行く回数が多い高齢者ほど死亡率が高い」という、衝撃的な調査結果を発表しています。その研究によれば、夜間の排尿回数1回以下の人を1とした場合、2回の人では死亡率が1.59倍、3回の人は2.34倍、4回以上の人になると3.60倍にまで高まるそうです。しかしながら、夜間にトイレに行かなくても済むようにと、就寝前の水分を控えるのも危険です。脱水をきたしやすくなり、その結果、血液の粘度が高まり、血管が詰まりやすくなるため、脳梗塞や心筋梗塞のリスクが高まります。
尿漏れは「年のせいだからしかたがない」と放置してはいけません。
では、チェック項目(ページ下部)を見てみましょう。尿漏れには、「骨盤底筋」の衰えにより、おなかに力がかかった時に尿が漏れる「腹圧性尿失禁」と、膀胱の活動が高まることによって尿が漏れる「切迫性尿失禁」の2つのタイプがあります。
【1】~【3】のいずれかに当てはまれば、「腹圧性尿失禁」の可能性が高いと言えます。【4】~【7】のいずれかに当てはまれば、「切迫性尿失禁」の可能性が高いと言えます。このタイプの尿漏れは、神経の異常などで膀胱が過敏になり、その活動が高まること(過活動膀胱)が原因で起こります。通常はペットボトル1本(500ml)くらいの尿が膀胱にたまると尿意を感じますが、過活動膀胱の状態になると100~200mlの少量でも尿意を強く感じます。そのため、昼夜を問わず何度もトイレに行く「頻尿」の症状をきたしたり、急にトイレに行きたくなりますが、途中で漏らしてしまったりすることも少なくありません。
この過活動膀胱は男性も女性も同じ頻度で生じます。そして男性の場合は、その背景に「前立腺肥大症」があることも多いのでご注意ください。「前立腺肥大症」は、膀胱の下にあって尿の通り道にもなっている前立腺が、加齢などによって肥大することで起こります。【5】~【10】に当てはまる人は前立腺肥大症の可能性があります。前立腺肥大症は50歳から増え始め、60代では60%、70代で80%、80歳以上では90%の男性に見られるとされますから、ほぼ全ての男性に無関係ではないと言っても過言ではありません。しかも、排尿障害だけでなく、中には前立腺ガンが潜んでいる危険もある症状なのです。この「前立腺肥大症」については、またあらためて別の機会で取り上げるとして、ここでは「腹圧性尿失禁」と「切迫性尿失禁」の対策法を紹介します。
腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁のどちらか一方でも、あるいは、その両方が混じり合ったタイプ(実際の尿漏れはこのタイプが多い)でも、いずれの尿漏れも症状が軽ければ自分で治すことができます。要は、衰えてしまった骨盤底筋を鍛え、尿の出口をギュッと締める機能を取り戻せばいいのです。「骨盤の下にある筋肉をどうやって鍛えればいいの?」と疑問に思う方もいるかもしれませんが、骨盤底筋体操の方法は簡単です。寝転がったり、座ったりしたままでも骨盤底筋は鍛えることができますので、以下の体操をぜひやってみてください。
【骨盤底筋体操】
〈初級者レベル〉
<1>慣れるまではあおむけの姿勢で、おならを我慢する要領で肛門を締める、あるいは排尿を終えた時のように尿道を締める。
<2>目安は10秒締めたら30秒休む。
<3>1日10回行う。
〈中級者レベル〉
床に座って壁に寄りかかった姿勢で<1>~<3>を行う。
〈上級者レベル〉
<1>~<3>を日常生活に取り込む。電車内や会議中などでもできるようになれば、表情を変えずに、人に気づかれないでトレーニングできる。
もし、骨盤底筋体操の効果が見られなければ、薬を用いて治すことが可能です。特に切迫性尿失禁はより薬の効果が望めます。ただし、男性で前立腺肥大症が原因で重症になった場合は、前立腺そのものを手術で切除しなければ尿漏れや頻尿の症状が軽快しないこともあります。
一方、腹圧性尿失禁では、体に影響のない特殊なテープで、尿道を支えて安定させ尿漏れを防ぐ「TVT手術」という治療法があります。この手術は局所麻酔で行われ、2~3日の入院が必要です。約1センチの傷が下腹部に3カ所ほど残ります。健康保険を使えますが、自己負担も10万円ほどかかります。多くの病院でTVT手術は行われつつあります。
尿漏れや頻尿は、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)を大きく低下させます。恥ずかしいからと隠さず、あるいは、年のせいだからと諦めず、きちんと向き合って対処していきましょう。
──尿漏れ・頻尿チェック項目──
【1】咳やくしゃみ、大笑いをした拍子に尿を漏らしたことがある
【2】重いものを持ち上げた時、尿を漏らしたことがある
【3】坂道を下っている時に尿漏れしたことがある
【4】急にトイレへ行きたくなり、間に合わずに漏らしたことがある
【5】トイレに行ってもあまり尿が出ない
【6】1日(起きている間)に8回以上トイレに行く
【7】夜寝ている時、2回以上トイレのために目が覚める
【8】尿に勢いがなく、チョロチョロとしか出ない
【9】尿のキレが悪い。残尿感がある
【10】排尿の途中で尿がとぎれることがある
※【1】~【3】は腹圧性尿失禁、【4】~【7】は切迫性尿失禁、【5】~【10】は前立腺肥大症の可能性が高い。
◆監修 森田豊(もりた・ゆたか) 医師・医療ジャーナリスト・医学博士。レギュラー番組「バイキング」(フジテレビ系)など多数。ドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」の医療監修も務めた。