突然ですが、皆さんは健康診断などを受けて、その結果が出た時、どの数値に注目しますか? 糖尿病の心配がある人は血糖値、お酒の飲みすぎが心配な人はγ-GTPやALTというように、それぞれ人によって違うとは思いますが、何よりもまず「血圧」に注目する、という方はあまり多くないかもしれません。
そもそも「血圧」とは何かご存じでしょうか。いつも言われるままに測っていて、「高すぎるとダメ」だということは知っていても、なぜ「血圧」が高すぎるとダメなのか、正しく理解している人はそれほど多くはないと思います。ということで、今回は「高血圧」の話です。
人間の体内において、血液は心臓のポンプ作用により、動脈を通って全身に送られ、静脈を通り心臓に戻ってきます。それによって酸素や栄養分が運ばれ、二酸化炭素や老廃物が回収されるわけですが、血液が血管の中を通る時、血管の壁に内側から圧力がかかります。この圧力が「血圧」です。
心臓がぎゅっと収縮して血液を送り出す時の血圧(収縮期血圧)を一般に「上の血圧」「最高血圧」などと呼びます。反対に、血液が心臓に戻ってきて、心臓が膨らみ、次に送り出す血液をためている状態の時の血圧(拡張期血圧)を一般に「下の血圧」「最低血圧」などと呼びます。血圧に上と下があるのはこのためです。
一般的には、「上の血圧」が140mmHg以上、もしくは「下の血圧」が90mmHg以上であれば、「高血圧症」と診断されます。日本高血圧治療ガイドラインを含めて世界的にこの値で診断されています。高血圧症の診断は、1回だけの血圧測定だけでなく、複数回、さらには日を変えて測定してから診断します。
「高血圧症」は、頭痛やめまい、耳鳴りなどが現れることがありますが、ほとんどの場合、特別な自覚症状は現れません。しかし、症状がないからといって、「ほうっておいても大丈夫」ではないのです。治療せずにほうっておくと、知らないうちに心臓や血管に大きな負担がかかり、やがて心臓病や脳卒中、腎臓病など、命に関わる病気を引き起こす原因となります。
「高血圧症」の合併症としては、高血圧性心肥大、うっ血性心不全、脳出血・脳梗塞などの脳血管障害、心筋梗塞・狭心症、眼底網膜病変、高血圧性腎障害などがあげられます。自覚症状がないまま進行して、脳や心臓の障害に発展するとても怖い病気である「高血圧症」は、別名「サイレントキラー(静かな暗殺者)」とも呼ばれています。血圧が高めの数値が出たら、早急に対策を講じましょう。
「高血圧症」の原因は、今のところはっきりとわかっていませんが、日頃の生活習慣をはじめ、いろいろな要因が複雑に絡み合って発症すると言われています。
では、チェック項目(ページ下部)を見てみましょう。
【1】~【3】は塩分のとりすぎ。塩分を薄めるために体に水をため込み、血液量が増加し、血圧の上昇につながります。【4】~【9】も全て高血圧症になりやすい生活習慣です。特にタバコに含まれるニコチンは、血管を収縮させるため、血圧が上昇します。【10】は、両親ともに高血圧だと約60%、両親のどちらかが高血圧だと約30%の確率で高血圧が遺伝するとされています。そうした高血圧になりやすい体質を受け継ぐと、比較的若い頃から高血圧になることが多いようです。
対策としては、まずは食事に気を遣うことです。塩分のとりすぎ、アンバランスな食事内容、不規則な食事時間、睡眠前の食事など、食生活の見直しが重要です。塩分は1日7グラム以下に減らしましょう。例えば梅干し1個、あじの干物1枚、たくあん3切れを減らすだけで、それぞれ2グラムずつの減塩ができます。減塩メニューを続けるコツは、醤油やソースは小皿にとって、“ちょん”とつけるだけにする、ラーメンやうどんの汁は残す、かまぼこ・ちくわ・ソーセージなどの加工品は塩分が多いことを意識する、など。ごま油やオリーブオイルなど風味のある油を使うのも効果的です。
肥満がよくないからといって、痩せるために食事を抜くという人もいますが、これはいけません。空腹感が増すため1度に食べる量が増えたり、体が飢餓状態になり、より多くの栄養を吸収したりして、かえって太る原因になり、血圧にもよくありません。食事は1日3回、規則正しくとるように心がけましょう。
次は運動です。歩数計を携帯して、1日1万歩を目安に歩く。これを週に4~5回程度、最低20分続けてください。運動の前後に水分補給を忘れずに。途中でものどの渇きを感じたら、我慢しないですぐに水分をとりましょう。飲むのはカロリーの高いスポーツドリンクよりも、ミネラルウオーターがオススメです。
歩くよりもう少し激しい運動ができる人は、水泳やジョギングなら1日30分、体操は1日1時間、サイクリングは1日1時間を目安に行うとよいでしょう。仕事が忙しくてなかなか運動する時間が取れないという人には、ヨガ、ラジオ体操などのDVDがありますので、時間のある時に、テレビ画面に向かいながら行うのもよいかもしれません。
もし高血圧症になったとして降圧剤の薬を服用することになっても、食事療法・運動療法を続けることはとても重要です。降圧剤を内服するようになったら、なるべく自宅でも一日数回、血圧測定をするべきです。降圧剤を飲んでいるからといって不摂生な生活をするのは禁物です。薬物治療を開始したあとであっても、生活習慣の改善に引き続き取り組むことにより、徐々に血圧が下がり、将来的に薬剤を減量したり、中止したりできることもあります。
「高血圧」は症状が出にくい病気の一つですが、重大な病気に発展するおそれがあります。生活習慣の改善に取り組み、健やかな毎日を送りましょう。
──高血圧チェック項目──
【1】醤油やソースなどの調味料はドバドバかけて食べる
【2】漬物や塩辛など、塩気が強いものが好きでよく食べる
【3】ラーメンの汁を最後まで飲み干す
【4】食事の時間や回数が不規則である
【5】タバコを吸う。特に朝起きてすぐに吸う
【6】ビールは1日で、大瓶1本以上飲む
【7】缶コーヒーを1日に4本以上飲む
【8】BMI(体重÷身長÷身長)が30以上の肥満である
【9】最近、ストレスを発散できてないと思う
【10】両親や兄弟に高血圧の人がいる
※5個以上当てはまれば、「高血圧症」のおそれがありますので、注意してください。
◆監修 森田豊(もりた・ゆたか) 医師・医療ジャーナリスト・医学博士。レギュラー番組「バイキング」(フジテレビ系)など多数。ドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」の医療監修も務めた。