まさに故人を弔うお盆真っただ中に、仰天の最新葬儀システム誕生の報が届いた。なんと車に乗ったまま全て済ませることができる「ドライブスルー型」だというではないか。その全貌をレポートしよう。
一風変わった葬儀システムを開発したのは、長野県の葬儀コンサル会社・D&Aコンサルティング。竹原健二社長が語る。
「『ドライブスルー&アテンドスタイルホール』といい、会場横に車が通り抜ける専用通路を確保した新しい葬儀場を提案しています。通常の葬儀が進行する中、同時にドライブスルーでの参列も受け入れるという形です。そもそもこのシステムが必要だと思ったのは、知り合いの高齢者の方から葬儀に行きたいから車を出してほしいと頼まれてからなんです。その方はお子さんも皆独立して遠くにいるし、各葬儀場のバリアフリー化が進んでいるとはいえ、車イスには押し手が必要なのに、葬儀場には係員が少ない。身寄りのない高齢者や体が不自由な人が気軽に葬儀に参列できない実情があるんです。今後、団塊の世代の高齢化が進み、動けなくなる人が増えることを考えると、こうした需要は増えていくでしょう」
ドライブスルー型葬儀のおおまかな流れはこうだ。
まず車で専用通路に入り、LED誘導灯の指示に従って専用受付までたどりつく。受付にはタッチパネルがあり、車から降りずに窓から手を出して氏名・住所等を入力するのだ。さすがに香典はここで係員に手渡しする。受け付けが済んだら焼香ゾーンへ。ここでの焼香は通常のように抹香を指でつまむのではなく、焼香台に置かれた「焼香ボタン」を押すだけ。すると、葬儀場の喪主近くに置かれた花型のランプに明かりがともって、焼香した事実を知らせてくれるという。
「まるで近くで焼香しているかのように優しくともります」(竹原社長)
それと同時に、焼香ゾーンに設置されたカメラが車内で手を合わせ、祈りをささげている様子を撮影。その様子が、葬儀場の遺影近くに配置するスクリーンに映写されるのだ。焼香が終われば、そのまま通路を抜け、儀式の一部始終を見届けることなく葬儀場を後にするのだという。
少し味気ない気もするのだが、周囲から反発はなかったのだろうか。
「業界からも社内からも反対の声はなく、むしろ葬儀場サイドからの反応はいいです。不自然な形だと思われる方もいると思いますが、本来の焼香は葬儀場で並行して行っていますので、参加に問題のない方は通常の葬儀にご参加いただければと思います。重要なのは、これまで参列したくてもできなかった高齢者や体が不自由な人、多忙な方なども参列できるようになるということ。故人の方も多くの人たちに送られたほうがうれしいでしょう」(竹原社長)
現代では墓参りの頻度が減ったため、手入れされなくなった墓が増えて、随時撤去されているような状況だという。一方で立体駐車場型の納骨システムが登場し、不便を解消することで維持しやすくなっている。これと同様に、多少情緒がなくとも、葬儀に参加できることのほうが大切ではないかと竹原社長は指摘するのだ。
宗教学者の島田裕巳氏は、新しい葬儀の形が受け入れられつつある現状をこう分析する。
「地方では葬祭会館へ車で行くことが普通。だから、お酒を出さないなど葬儀の形が徐々に変容してきている。ドライブスルー型葬儀はこうした地方の実情を踏まえた過渡期のものでしょう。そもそも葬儀には家や会社など組織で行う社会的行事の側面がある。高齢化社会が進むと、交流する人も亡くなり、社会などの共同体から離れる期間も長くなってきているため、社会的行事としての葬儀を行う必要性も薄れていくものです。割り切った考えの人が多く出てくるのも、自然な流れなのでしょうね」
ドライブスルー感覚が、故人を偲ぶ機会を増やすかもしれない。