休日の平穏を切り裂くように、靖国神社で卑劣な爆破事件が発生した。テロを心配する声も渦巻く中、はたして凶行に及んだ犯人像は──。
11月23日の午前10時頃、東京・靖国神社内の男子トイレ個室から爆発音と白い煙が上がった。事件当時、現場にいた主婦が騒然とした現場を振り返る。
「この日は新嘗祭と七五三ということで境内は人であふれ返ってました。だから、爆発音のような音が鳴った時も誰か爆竹でも鳴らしたのかなと思いましたが、周囲から『爆弾が爆発した』と声が上がって。怖くなってすぐ外に逃げました」
通報を受け、警視庁は即座に爆発物処理班を出動させている。現場周辺には、消防や神社職員も含め総勢100人以上が集まり、中には、防護服を着用した警察官の姿も見受けられた。
「現場の個室の床には乾電池と焦げた乾電池ケース、タイマー、電子基盤が散乱していました。天井には犯人が開けたと見られる穴があり、中には4本の鉄パイプが結束された状態で見つかりました。密閉されたパイプ内には火薬と見られる固形物が残されており、いわゆる“鉄パイプ爆弾”の構造を成していた。幸い何らかの原因で、パイプへのリード線が切れてしまい、起爆は失敗したようです」(社会部記者)
現場に響いた爆発音との関係については現在調査中だが、軍事ジャーナリストの神浦元彰氏は「爆発物の構造は小学生並み」と一蹴したうえで、危険性に警鐘を鳴らす。
「花火に使う程度の黒色火薬が用いられていたとしても、密閉したうえで、仮に4本のパイプ全てが吹き飛んでいたら、トイレの半分が崩れるほどの威力はあるでしょう。爆発時に人が現場に入っていたら、亡くなっていてもおかしくはなかった」
幸いにも被害者はいなかったが、犯人は11月27日現在で逮捕には至っていない。
「犯人と思われるリュックを背負った黒い服装の若い男性が、無防備にも複数の防犯カメラに映っていました。犯行後、地下鉄・九段下駅方面に逃走しており、警視庁所属の捜査支援分析センターが近隣の防犯カメラをくまなく分析しています」(前出・社会部記者)
世界中でテロが頻発している中で起きた今回の事件だが、犯罪ジャーナリスト・小川泰平氏は「過激派の犯行ではない」と断言する。
「過激派でしたら単独で行動はしませんし、防犯カメラに映るようなヘマもしません。犯行声明も出していないところを見ると、多くの人が怖がることで注目を浴びたいような個人活動家ではないでしょうか」
軍事ジャーナリスト・黒井文太郎氏も追従する。
「過激派であれば、A級戦犯の合祀反対をうたい、政権や宮内庁に対し行動を起こすことは考えられます。ですが、戦没者を祀っている靖国神社自体を狙うのは考えられません。爆弾の構造も含め、一匹狼のゲリラ活動家気取りの素人でしょう。今年4月に起きた、首相官邸ドローン落下事件の犯人と同様の人種です」
当時逮捕された男性といえば、「反原発を訴えるため」と動機を語り、みずからを「官邸サンタ」と名乗って犯行の一部始終をブログで公開するなど、自己顕示欲の強い男だった。
「ただ話題になっただけで自分は社会に一石を投じたと自己満足する妄想たくましい人物でしょう。昔は活動をするには組織に所属しなくてはならなかったが、今はインターネットの普及で素人でも簡単に爆発物を作る知識を得られるし、意思を表明することもできる。こういう1人妄想系の人間が出てきやすい環境なんです」(黒井氏)
来年には伊勢・志摩サミット、20年には東京五輪が控えているだけに、神浦氏はこう語る。
「今回のような素人や愉快犯の格好のターゲットになるでしょう」
とはいえ、奇異な個々人の把握、取締りには限界があるのも事実だ。
「ネット上の書き込みを監視し、取り締まるぐらいでしょうからね。『こんな事件で捕まってもヒーローじゃなくて、アホのコ扱いだよ』という風潮を作ることも大切でしょう」(黒井氏)
1日も早いお騒がせ犯の逮捕が望まれる。