00年代前半の「怪獣シャツ男」や、00年代中頃、押収した塗料片の先にいた人物──これまで捜査本部で浮上した人物はいた。しかし、いずれも物証などと合致せずに消えてしまったのがこれまでの経緯だ。一方、DNA鑑定では、しぼり込みが進んだ。
「犯人はアジア系男性。犯人の父親は日本人で約13人に1人、中国人で約10人に1人、韓国人で約5人に1人の(DNAの)型を持っている。母親は、南欧系か南欧系の祖先を持つ人物です」(捜査関係者)
だが、これもまた解決の「糸口」と呼ぶには程遠いものである。さらに同じ警視庁でも、殺人を専門とする捜査1課と公安部の見立てが真逆となっており、捜査の足並みがそろわないことが指摘されている。
「1課は、事件当時に現場付近での生活歴のある人間による、単独犯と見ています。一方、公安は外国人犯行説。メディアで『外国人犯人』が書かれる時は、公安関係者が情報源とされています」(社会部記者)
今回、一橋氏は指南役を韓国出身の男性・K、実行犯を元韓国軍人・R(同書ではともに仮名で記述)としている。
「私が30年以上、さまざまな犯罪を取材してきた中で徹底してきたのは、捜査情報を入手するだけではなく、できるだけ現場を訪れ、当事者や被害者に直接取材を行い、そこで得た情報を捜査側とキャッチボールすることでした。本書の犯人像については、その手法に基づき、これまでに築いた人脈から得た情報をもとにたどりついたものです」(前出・一橋氏)
どのような取材によって“犯人”に至ったのかを、一橋氏に聞いた。
「これは実行犯が韓国限定発売の靴を履いていたからという短絡的な理由から出たものではなく、遺留品のジャンパーに残されていた韓国・京畿道の土砂やヒップバッグから採取されたアメリカの砂、印刷機に使われるガラスビーズなどの微物についての検証などを通して確信したものです」
何より最大の謎は、事件の動機。本書によれば、当時、公園の拡張整理で被害者には約1億数千万円の金が入ることになっていたという。妻・泰子さんが長男の健康問題を相談していたKがこれを知った。そして、Kはその金をだまし取ろうとして、事件になったという。Rが現場に残ったのは泰子さんと、指南役・Kとの接触の痕跡を物色していたと一橋氏は見ている。
「事件の詳細については本書をお読みいただければと思いますが、主犯と実行犯の分業などについて、合理的に説明ができているものと自負しています」(前出・一橋氏)
一橋氏は実行犯の元韓国軍人と韓国で接触。指紋を入手し、押収された指紋とほぼ一致していることも確認したという。本件は、公訴時効停止となっている。が、遺族に無限の時間が用意されているわけではない。一刻も早い解決が切に待たれる。