欠陥工事は何も住宅やビルだけにあるもの廃材とガレキが詰まった橋脚ではない。東京の交通、流通を支える首都高速道路に、とんでもない「手抜き」実態が浮上した。もし昨今指摘される首都直下型大地震が発生したら――。都心を待ち受けるのは、阿鼻叫喚の大惨事という地獄絵図。あなたはそれでも首都高を走りますか?
東日本大震災以降、発生の切迫性が取りざたされている首都直下型大地震。今年3月末、政府は想定される最大震度を「6強」から「7」へと引き上げたが、そんな中、1日平均約100万台の車が行き交う「首都高速道路」の安全性に疑念の声が上がっている。東京都の防災関係者は、
「震度7は気象庁が定める最大の震度階で、要は被害も揺れも青天井になるということ。今回の見直しで震度6強のエリアが大幅に拡大されたことを含め、首都高にも想定を大きく超える被害が発生すると考えておかなければなりません」
と前置きしたうえで、次のように指摘するのだ。
「政府が発表した震度7と6強の想定エリアは、首都高のネットワークエリアとほぼ重なっている。もともと首都高は、1923年の関東大震災のような比較的周期の長い地震波の揺れに耐えられるよう設計、建設された。が、首都直下型地震で首都高を襲うのは周期1秒未満の短周期地震波、いわゆる『キラーパルス』。青天井の震度7はむろんのこと、震度6強でも何が起きるかわかりません」
事実、95年の阪神・淡路大震災では、そのキラーパルスによって、倒れるはずのない阪神高速の一部が無残にも横倒しになった。もちろんこの間、首都高を管理、運営する首都高速道路株式会社も手をこまねいていたわけではなく、阪神・淡路以降、主に3つの柱からなる対策に取り組んできた。
第1は座屈防止。これはコンクリート製の橋脚に鋼板を巻きつけたり、鋼製の橋脚の内部を補強したりする対策で、阪神・淡路から4年後までに必要な工事が完了している。第2は落橋防止。これは高架のジョイント部分をブラケット(支え材)やケーブル、鋼板などで補強する対策で、こちらは来年3月までに必要な工事が終了する予定だ。
第3は側方流動防止。運河沿いなどの軟弱地盤に建つ橋脚の地盤では、地震で液状化した地盤が流動化して護岸壁を突き破り、橋脚を支える基礎杭を破壊してしまう危険性がある。この側方流動を防ぐため、基礎杭近くの地中に鋼管でできた杭を並べて打ち込んで壁を設けるというのがこの対策で、これも座屈防止対策同様、現在までに必要な工事が完了している。
ところが、である。東京で最大震度5強を記録した東日本大震災では、一連の耐震補強工事が施されているはずの首都高で、ジョイント破損10カ所、路面損傷11カ所、トンネル内漏水5カ所、支承(橋桁と橋脚の間の部材)脱落1カ所、トラス部材(トラス橋の構造部材)損傷1カ所、料金所損傷1カ所など、大小合わせて29カ所もの被害が発生してしまったのだ。