◆今週のキーマン:麻生太郎〈あそう・たろう〉(副総理兼財務相)●40年生まれ。08~09年、第92代総理。政界失言王のかたわら「踏襲=ふしゅう」「未曾有=みぞうゆう」など漢字読み間違いでも国会を騒然とさせた。
「再登板」虎視眈々も難しい立ち位置
総選挙後の最大の注目人物はどうやら、安倍政権の相談役的存在だった麻生太郎副総理兼財務相となりそうである。麻生氏は常々、「安倍政権の継承者はオレ以外なし」の自負の下、総理「再登板」への意欲並々ならず、と憶測されてきたからだ。
ところが情勢は一変した。よもやの安倍総理の消費税10%先送り判断である。予算の歳出権、徴税権を握る「最強官庁」財務省を預かる身としては、織り込んでいた税収増が見送られて面目丸潰れ、財務官僚の信頼も失いかねないところにある。麻生氏をよく知る政治部記者が言った。
「安倍政権になって以降、『安倍経産内閣』と呼ばれるようになった。財務省を尻目に、アベノミクスの成長戦略を担う官庁として強大化したのが経産省なのです。麻生氏は長く麻生セメント(現・株式会社麻生)の社長として経営実務に携わってきただけに、財務会計には誰よりも明るいとの自負がある。会社も国家も、収入すなわち税収を確保しなくては立ちゆかんということで、消費税10%先送りには相当ショックを受けていたといいます。先送りを機に、麻生氏と安倍総理の間には微妙な距離が生じている。このまま総理にヒレ伏すわけにはいかず、自民党の13人の財務省OB議員ともども、財務省をあげて反撃のチャンスを狙っているともっぱらです」
この「反撃」は、来年9月の自民党総裁選で、麻生氏が安倍総理への対立候補たることをも意味する。総選挙後の内閣改造で留任を断り、自由に身動きの取れる立場をキープするのでは、との見方も出ている。前出の政治部記者が続ける。
「今後、タカ派とハト派のねじれでうまくいっていなかった大島派との合流に拍車をかけ、麻生派の増強を目指すものと思われる。そのうえで、これまでの『安倍一強政治』に対する自民党内の不満組の後押しを受ければ勝算あり、と読んでいるのではないか」
一方で、総裁選チャレンジ、「再登板」へのハードルは高い。これ元気ではあるが、失言の類いが少なくないのは知られるところだ。先の総選挙のさなかにも、少子高齢化に伴う社会保障費増について「高齢者が悪いというようなイメージを作っている人が多いが、(女性が)子供を生まないのが問題だ」などと舌禍に近い発言をして、「優勢」と伝わる選挙戦に「逆風を呼ぶのか」と自民党幹部のマユを曇らせたりしている。また、自民党内の政権移動はタカ派からハト派、硬から軟へ、次はそのハト派からタカ派、軟から硬といった具合に世論目くらまし、絶妙のバランスの「振り子理論」が働くケースが多い。安倍総理から麻生氏へのバトンタッチではタカ派からまたタカ派へとなり、世論的には不利となる。さらに、「ポスト安倍」をうかがう面々には他に石破茂地方創生担当相、谷垣禎一幹事長、岸田文雄外相が控え、いずれも74歳の麻生氏より若さの強みがある。つまり、虎視眈々「再登板」を狙っているとされる麻生氏は、難しい立ち位置にあるということになる。
いずれにしても来年早々の政局は負けん気人一倍、マフィア風スタイルが妙に似合う手負いの麻生氏が、殴り込み一番手となることは間違いないようである。
◆政治評論家・小林吉弥