日本の歌謡史に名を残す作曲家・平尾昌晃氏は、数多くの「歌姫誕生」に立ち会った。プロのヒットメーカーが見た「売れる条件」とは何だろうか―。
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「今だから言えるけど、ルミ子に最初に会った日は歌は聴いていない。燃えるような力強い目を見ただけで、当時の渡辺晋社長に
『僕に曲を書かせてください』ってお願いしたくらい」小柳ルミ子(59)と出会ったのは71年だった。実はルミ子の目ヂカラは、極度の近視のために人を見つめるクセだったそうだが、結果的に歌謡界の大きな財産となった。平尾氏が書いたデビュー曲「わたしの城下町」は100万枚を超え、翌年の「瀬戸の花嫁」は歌謡大賞を制した。
「三人娘と呼ばれた天地真理や南沙織の乾いた声に比べると、ルミ子はウエットな声質。それでいて新しさもあり、その声を生かすために和洋折衷のメロディを作ったけど、そこにうまく乗ったよね」
73年にデビューし、たちまちアイドルとなったアグネス・チャン(56)は、実は平尾氏が来日のきっかけをつかんだ。作曲家としても「草原の輝き」や「愛の迷い子」を提供している。
「香港に行った時に見つけてきたんだ。彼女は香港では冠番組も持っているくらいのスターだったけど、お土産にと渡された彼女のアルバムが凄くよくてね。広東語でカーペンターズを歌っていたりして、その声はセンチメンタルな響きに満ちていた」
帰国後、すぐに渡辺プロに紹介し、日本デビューが決まったという。
やがて「平尾昌晃音楽学校」を設立したことにより、そのスカウト網は全国に広がった。大ヒットした「カナダからの手紙」をデュエットした畑中葉子や、石野真子、森口博子、川島なお美、近年では後藤真希や倖田來未も同校の出身者だ。そして─、
「福岡校で松田聖子(49)を初めて見た時はショックを受けたね。中音から高音にかけての声の響きが、今までに聴いたことのないものだった。この子は頑張ったら、凄くおもしろくなるなと思ったね」
やがて聖子は80年代を代表する歌姫に君臨する。ただ、東京へ行くことは父親が絶対に許そうとしなかった。
「大成する子って共通点があって、聖子みたいに親が猛反対しているとか、あるいは母子家庭で苦労している子とか。歌い手になりたいという強い気持ちが、そうした逆境をはね返すんでしょう」
主演ドラマの劇中歌を書いた山口百恵(52)も、その一人である。ツッパリ系の「プレイバックPart2」や「ロックンロール・ウィドゥ」と、抒情歌の「いい日旅立ち」や「秋桜」では、対極のはずなのに、百恵が歌えばヒロインとして成り立つ。
「どのヒロインも、実にさりげなく演じているでしょ。それでいて歌の難易度は凄く高い。カラオケで、あきらめる人が多いのも当然」
平尾氏によれば、真の歌姫の条件とは、単に歌唱力の問題ではない。西田佐知子(72)や、ちあきなおみ(63)を例に出して言う。
「何曲聴いても飽きないし、疲れさせない。僕らは『神音』とか『霊音』とか言うんだけど、脳を揺らすような歌声。そういう人たちが、また出てきてくれないかと願うよ」
グループばかりでなく、ソロの歌い手として―。
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