女子アナ

女子アナという生き方~連載第2回 松富かおり 「NEWS23筑紫さんに初対面で教養がないと言われました(笑)」

 TBSの看板番組「筑紫哲也 NEWS23」で、故・筑紫哲也氏との名コンビで人気キャスターの座に躍り出た有村かおり。しかし突如、番組を降板。フリーに転身し、その後も小説を執筆するなど多才な活動を続けている。その裏では、女子アナとしてのさまざまな葛藤や思いがあったというのだ。

松富かおり(有村かおり)
 鹿児島県出身。東京大学文学部卒業。1983年にTBSに入社し、「朝のホットライン」「筑紫哲也 NEWS 23」など多数出演。99年TBS退社。以後フリーに。05年、小説「リサレクション」(講談社)を出版するなど多岐にわたり活躍。現在、「世界は今 JETROグローバル・アイ」(BS 11)などの番組出演や講演会の講師として活動中。今年の4月から「松富かおり」に改名

最初は美容師を目指していた

「私の誇りはキャスターを20年以上やってきて、1回も視聴者にウソをつかなかったこと。これだけは自信を持って断言できます」
 そう語るのは今年の4月に、有村かおりから改名したばかりの松富かおり(51)。元TBSキャスターで、東大文学部卒の才女。
「NEWS23」など多くの番組に出演。99年にTBSを退社した以降も、フリーとして活躍している。昔と変わらぬ美しさと上品な立ち居振る舞い、豊富な経験と知識を生かした仕事ぶりは、業界でも定評がある。
 そんな彼女だが、意外にも大学を卒業する頃には別の道を志していたという。その意外な道とは‥‥?
「実は美容師を目指していました。母が鹿児島県でいちばん大きな美容院を経営していたので。だから東大に入った時も『何で東大に行ったの!?』と、周りに言われました(笑)。大学卒業後は当然のようにカッティングスクールに通いました。国家試験も一次は通っているんですよ。そんな中、大学の先輩からNHKのアルバイトのお誘いを受けたんです。内容は社会問題を扱う番組のインタビュアー。その仕事を通じて、私は人に何かを伝える仕事をしたいと思うようになりました。その思いがどんどん強くなって、テレビ局のプロデューサーかアナウンサーになろうと決めたんです」
 こうして大学卒業の1年後にTBS採用試験を受けみごと合格。83年、TBSに入社した。
「初めて担当した番組は、『アイ、ラブ、ワールド』という番組でした。タイトルどおり、さまざまな国に行ってその国の魅力を伝える番組です。自分で原稿を書かせてもらえるので、とてもうれしかったことを覚えています。初めて書いた原稿を上司にチェックしてもらった時は、もうドキドキでした。この番組のおかげで、さまざまな国に行かせていただきました。他の番組も含めると45カ国ぐらい行っていますね」
 当時は、水着やレオタード姿で仕事をしたことも。
「『朝のホットライン』でギリシャに取材に行った時には、ヨットでのクルージング映像を撮るのに水着になりました。あの頃は何の意識もなく水着になっていました。『海の取材なんだから、当たり前でしょ』みたいな。他にもスポーツクラブの取材でレオタードになったり‥‥。入社3年目で何もわからない時だったから、ディレクターに言われるがままに着たんですけど、それが今ユーチューブに出ているので驚きですね(笑)。まあ、それもいい思い出です」

筑紫哲也氏との仕事は生涯の宝

 前述の「朝のホットライン」から始まり、「ハロー!ミッドナイト」、そして「筑紫哲也 NEWS23」(以下「NEWS23」)など、しだいに早朝から深夜まで数多くの番組を抱え、多忙な日々を送るようになる。
「朝と夜のニュースを連日やっていた時、朝のニュースの挨拶で思わず『こんばんは』と言ってしまったことがありました。緊張してニュースを読んでいて『寒気き団だん』を『さむけだん』と読んでしまったことも‥‥」
 局にいた時は、人間関係でもさまざまなことを経験したという。
「人間関係で失敗したこともあります。足を引っ張られたり、孤独感にさいなまれたり。でも、そんなネガティブな部分を含めて自分があるんだ、と今は受け止めています。個人的には、『NEWS23』に出演していた香川恵美子さんととても親しくさせていただきました。番組終了後にお宅へ伺って彼女お手製の『大根御飯』をごちそうになったこともあるんですよ」
「NEWS23」の看板アナウンサーを3年半務めた彼女だが、メインキャスターだった故・筑紫哲也氏と仕事を共にしたことは生涯の宝だという。
「筑紫さんに初めてお会いした時に、『東大生って教育はあるけど、教養がないんだよな』って言われたんです(笑)。キャスターは原稿をきちんと読み、政治、経済などを理解すればいい、と言う人が多かったんですが、筑紫さんは違いました。それだけではなく、芸術、文学、その他、全てのいいものを吸収したうえでこの問題をどう見るかという、総合力を大切にされる方でした。『机で勉強しただけではダメ。毎日見たことを吸収して生かしていかなければダメなんだ』と、よくおっしゃってました」
 その言葉に衝撃を受けて以降、進んで音楽や絵画の鑑賞にも出かけ、さまざまな目を養う。続けてこう語る。
「筑紫さんが『こうだよね』と言っても普通のアシスタントは『そうですね』と相槌しか打たないでしょ。でも私は、それは違うと思ったら『こういう考え方があってもいいじゃないですか』と意見を言いました。筑紫さんに意見するキャスターは私だけではなかったでしょうか。一度、筑紫さんの友人に『ようやくお前(筑紫氏)と違う意見を言えるサブキャスターと出会ったな』と言われ、とてもうれしかった。筑紫さんがうれしかったどうか、わかりませんけどね(笑)。でも、彼の言っていることに、ただハイハイ言っているだけでは番組にキャスターが2人いる意味がないじゃないですか。
 こんなこともありました。サッカーのマラドーナ選手が麻薬問題で日本に入国できないことに対し筑紫さんが『そんなの大目に見てやればいいじゃないか』と言ったんです。私は納得できなくて『でも日本は一つの国として尊厳があるのだから選ぶ権利はあるんじゃないですか?』と言ったら筑紫さんは、ギョッとして驚かれていました(笑)」
 大物キャスターを相手に意見をするとは、さすが薩摩おごじょだ。

受験生のような英語三昧の日々

 一方、筑紫氏もそんな彼女の報道姿勢を高く評価していたという。
「『NEWS23』を去る時、筑紫さんが『キミを手放すのか‥‥』と惜しんでくださいました。3年前にお亡くなりになりましたが、その知らせを聞いた時には悲しみのあまり思わず足がガクガク震えました。まさに『巨星堕つ』という感じでしたね」
 筑紫氏や周囲に惜しまれながら99年TBSを退社しフリーになった松富。すでにアナウンサーとして局にいた時から、フリーになることは考えていたという。
「私、ウソを言うのは嫌いなんです。その点、フリーは自分の主義に合った仕事を選択することができる。これが私にとって、とてもうれしいことでした」
 そして、その後、結婚。相手は「NEWS23」で一度一緒に仕事をした外務官僚だった。御主人とのなれ初めについて、聞いてみた。
「『NEWS23』でミャンマーのトピックスを取り上げた時、ゲストとして出演したのが彼だったんです。その半年後、個人的な取材も兼ねた旅行でミャンマーに行くことになりました。当時、ミャンマーは治安が悪く、危険な場所にも取材に行くため、万が一、私が軍事政権に逮捕された場合のことを考えて、外務省を訪ねたところ彼が担当してくれたのです。そこで私は彼に『私に何かあったら、人質交渉お願いします』と挨拶しました。きっと主人は変わったヤツだなあ、と思ったでしょうけど(笑)」
 彼女は現在、キャスターの仕事をこなす一方で、外交官夫人としての役割も務めているという。
「海外赴任の時はもちろん、日本にいる時も、さまざまな国の大使ご夫妻からディナーやパーティに夫婦で招かれます。そういう時には外交官夫人として、ちょっと大げさですけど『日本の女性代表』としてふるまわなければなりません。主人の仕事で大切なことは海外からの大使たちと信頼関係を結ぶこと。夫人である私は、そんな夫の仕事の潤滑油になるよう、あちらの方々の文化を理解し、また日本の文化もお伝えしたいと思っています。そのために英語は今でも勉強しています。ふだんから英語の小説のオーディオブックを持ち歩いて聴いていますし、お風呂でも英語の勉強をしています。まるで受験生みたいでしょ。でも、大使と英語で文化や歴史の話ができないようでは、どうしようもないですからね」

小説執筆のキッカケは「孤独感」

 キャスターとして、外交官夫人として、そして彼女にはもう一つの顔がある。小説家という顔だ。05年には初の長編小説「リサレクション」(講談社)を出版。内容は、結婚して広告代理店部長の肩書も持つ女性が一人の男性と出会い、あらゆる障害を乗り越えて恋を貫いていくという男女の深い恋愛を描いたものだ。
「私、TBSの最後の何年間は、物凄い孤独感にさいなまれていたんです。裏切りもありました。その凍えるような孤独感を書きたくてこの『リサレクション』を執筆しました。そして、この孤独感がどうすれば癒やされるのかも伝えたかった。一つ不本意なのは、この小説が私の私小説、自叙伝だと言われたこと。あれはまったくのフィクションです。希望があればどんな逆境でも生きていける。愛があれば、どんなに深い傷も癒やされる。私は人間が生きる時にいちばん必要なものは希望と愛だと思うんです。この2つがあれば、どんな逆境でも生きていけると思うんです。そのことをこの本から感じ取ってもらえればと思います」
 さまざまな顔を持つ彼女。現在は講師として講演活動も行っている。その経験と知識を生かし、人間関係の築き方や、言語が違う人種間でのコミュニケーションの取り方などテーマはさまざまだが、松富が特に力を入れているのがメディアに関する問題だという。
「10年前にニュージーランドのヴィクトリア大学で国際関係論修士号を取得しました。修士論文では国家の動きに対してメディアの影響がいかに大きいかを考察しました。メディアは時として凶器になります。偽りの事実をテレビは簡単に作ることができるんです。湾岸戦争の時の油まみれの水鳥の映像などが記憶に新しいと思います。あの映像が全世界に流れたことによって、世界の世論はイラク・バッシングに傾きました。でも、あの映像は真実のものか定かではない、ひょっとしたら作られたものかもしれない‥‥。このようにメディアは真実の是非にかかわらず民衆に大きな影響を与えています。テレビに映っているものが全部事実ではない、ということを視聴者に知ってもらいたい。いつも批判する目を持ってメディアに接してほしいと思いますね」
 実にさまざまな分野で活躍する彼女だが、有村かおりから〝松富かおり〟に改名したのも、そのことに理由がある。
「今までは、キャスターとしての一面を皆さんにお見せしてきました。でも今は、さまざまな活動を通していろんな顔が私にはあります。キャスター有村かおりを脱皮して新たな面を出す意味で、4月から結婚後、私の本名になった『松富かおり』で仕事をすることを決心しました。生まれ変わった十面体の私を見ていただければとてもうれしい。どうぞ、これからもよろしくお願いします」
 有村かおり改め〝松富かおり〟として、新たなスタートを切った彼女。その目は常に時代の先を見据えている。

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