2月1日夕方、松野氏サイドに永田町のとあるビルの一室に呼ばれたA氏は、ようやく立て替え金を受け取ると、その足でスナック「Y」へ。そこにT氏、松野氏の別の秘書も同行した。T氏らはママに菓子折を差し出すと、「今回は迷惑をかけて申し訳ありませんでした」と謝罪し、立ち去った。A氏はそのままカウンター席で飲み始めると、返金時の状況をママに「怖かった」と、次のように打ち明けている。
「こちらが借金したわけでもない。向こうが返しに来るのが筋なのに、知らない場所に呼びつけられた。部屋に入ると弁護士3人の他に(秘書ら)全部で7、8人いて、書記役がやり取りを記録。弁護士が『あなたはどうしてほしいんですか』と尋問のように聞いてきた。『何で知らない人(T氏やS氏のことを指す)の分を僕が払わなきゃいけないのか。立て替えた分を返してほしいだけです』と言うと、封筒に入った2万7500円を渡された」
A氏が迷惑料でも請求すると思ったのだろうか。
実はこの「無銭飲食」騒動には、意外な「抜け穴」がある。法律事務所リーガルカウンセラーズの笹瀬健児弁護士が解説する。
「当初から支払う意思がないのにそれがあるかのように装い、注文すれば、この時点で詐欺罪の実行行為があり、料理が出された段階で既遂になります。当初は支払う意思があり注文したが、そのあと、支払い意思がなくなり、食後にそのまま逃げた場合は、注文行為には詐欺罪の実行行為性がなく、そのあとに代金債務を免れる意思を生じてから逃げたことになります。これは利益窃盗ということになり、処罰規定がないため、犯罪は成立しません」
呼びかけに応じず、詐欺の意思を明確にしないまま黙って店を出た場合も、犯罪には問われないという。だから名刺を渡しているにもかかわらず、支払わずに出たのか、と勘ぐってしまうのだ。さらに笹瀬氏は、
「民事では当然、支払い債務を負担している。倫理的には許しがたい行為です。仮に彼らが確信犯だとすれば利益窃盗のケースではなく、料理の交付に向けた欺罔(きぼう)行為を行ったのですから詐欺罪が成立します。結局、内心の立証可能性という難しい問題に帰着します」
今回の一件について、T氏、S氏、M氏に事実確認のコメントを求めると、3人の事務所の連名で、A4用紙2枚にわたる説明のファクスが届いた。要点は次のようになる。
「M秘書はA氏と長いつきあいであり、過去にA氏からおごってもらうことがあった。『Y』の支払いをA氏に確認したところ、『今日のところは大丈夫』と言われたため、そのまま帰宅した。A氏は店を出て秘書らを見送っており、『走って店を出た』事実はない。M秘書はA氏の誘いがあったこともあって、てっきりおごってもらったものと甘えてしまったところ、A氏はそのような認識でなかったことがわかり、支払う約束をした。秘書らに無銭飲食の意思はなかったのは明らか」
これにママは再び憤る。
「もしそうなら、Aさんがあんなに怒るはずがない。180度違います。あの日、『彼らは逃げたよ』とAさんに伝えたら『いやぁ、困ったな』と言っていました」
騒動当日、カウンター席で一部始終を見ていた別の常連客も言う。
「Aさんが見送った? ママが慌てて(秘書らを)追いかけていったから、そのあとについて出たんですよ。店に戻ってきて『あの女性は何者なの?』と聞いたら『会社の女の子の紹介で1、2回会っただけで、正体はよくわからない。秘書らしいんだけど』と言っていました。長いつきあいなんかじゃないでしょう」
最後にママは言った。
「Aさんには迷惑をかけてしまいました。国会議員の、しかも大臣の秘書が飲み逃げなんて、いけないことですよ。大臣はこんな人をすぐにでも処分してほしい」