原子炉をわかってない班目委員長
テレビ会議から透けて見える、時として対立、時としてはなれ合いのような国と東電の関係だが、プラントの状態悪化とともに国側は現場の作業方針にもたびたび口を出すようになる。その最初は14日の午前から始まっている。
本店・高橋フェロー 官邸の決定事項というのが武黒さん(東電・武黒一郎フェロー)からありました。で、それで3号機の冷却を10トンで継続して、残りを1号を優先して冷やせという指示がありました。
1F・吉田所長 はい、わかりました。
この数時間後には1号機でも3号機でもない、2号機での状況変化が著しくなることを考えると、必ずしもこの指示と関連があるとは言いきれないが、何とも皮肉な形となる。
官邸がなぜこのような細かい指示までも現場に出しえたか。それは内閣府原子力安全委員会の班目春樹委員長が詰めていたためである。
そして、2号機の燃料棒が露出するかしないかという瀬戸際だった時にも、班目委員長が福島第一原発の吉田所長へ直接電話で指示する様子が記録されている。
吉田所長 えっと、皆さん聞いて、本店さんも聞いてください。今、安全委員長の班目先生から電話が来まして、格納容器のベントライン生かすよりも、注水を先にすべきじゃないかと。要するに減圧すると水が入っていくんだから、そんなの待たないで一刻も早く水を入れるべきだというサジェスチョンが来たんですが、そのサジェスチョンに対して安全屋さんそれでいいかしら? そういう判断で。
1F・●●(匿名) サプレッションチェンバの水温が130度を超えていて、蒸気がSR弁を介してサプレッションチェンバに落ちても、恐らく凝縮しないで、ってことは、減圧が見込めない。そうなると、SR弁だけ噴いて、水がそれだけ御釜から出てきて、かつ減圧できない。という状況になるということを恐れているというのが実態です。
この点はちょっと解説が必要かもしれない。この時、班目委員長が指示していたのは、原子炉内の高圧蒸気を逃がす弁を開けて圧力を下げ、水を注入すべきと提言している。一方、現場は弁を開けると炉内の水位が急激に下がり燃料棒の露出が早まることを恐れていたのである。そして、現実には後者のような事態になってしまうのである。
公開されたテレビ会議システムから、一連の国や東電による情報の過小評価や隠蔽、そしてその対応が必ずしも的を射ていなかったことが、しだいに明らかになっている。
しかし、その内容の解析が可能な音声付き映像の公開はわずか50時間弱。のちの2号機での衝撃音発生や4号機での火災発生、さらには、国際的に非難を浴びた低濃度汚染水の海洋放出時などの際の音声付き映像はまだ未公開のままだ。福島第一原発事故を巡る闇の解明は、まだ端緒についたばかりなのである。