相手の地位や肩書によって対応を変えることはなく、人間を区別することもなかった勝。そんな勝のもとには、世代や人種を超えて人々が集まってきた。
映画「ゴッドファーザー」などの監督として知られるフランシス・コッポラも、勝を慕う一人だった。
「コッポラはもともとオヤジのファンで、一家で来日した際に、オヤジがコッポラをお忍びで滋賀の雄琴温泉に連れ出したことがあったんだ。ところが、部屋に入ったコッポラがなかなか出てこない。で、しばらくすると相手をした女性からクレームがあった。聞けば『コッポラのナニがデカすぎて、今日はもうこれ以上、客がとれないから、そのあたりを考慮してお勘定してほしい』と言うんだね。これには一同爆笑。以来、オヤジとコッポラとは親密な関係になった。その後、コッポラがオヤジをアメリカの自宅に招いてくれてね。ちょうど『地獄の黙示録』の編集を手がけていた頃で、エンディングに頭を悩ませていたコッポラはオヤジにアドバイスを求めた。結果はオヤジの助言どおりとなり、『地獄の黙示録』のエンディングが完成したというわけだよ」
なんと、「地獄の黙示録」完成の裏には、勝のアイデアがヒントになっていたというのである。
勝といえば、私生活でのトラブルにも事欠かなかった。黒澤明監督と撮影に臨んだ映画「影武者」の主役を降板、世間を騒がせたことも。
「『影武者』のコンテを見てほしいと黒澤監督が、オヤジと真田常務、俺の3人が待つ東プリへやってきた。そこには鎧兜に身を包んだ『勝新太郎』そのものの武田信玄の絵コンテが描かれていた。つまり、黒澤にとって『影武者』は勝新太郎以外の何者でもなかったわけだね」
黒澤監督といえば「世界のクロサワ」と呼ばれる巨匠。にもかかわらず、撮影現場は勝を中心に回っていた。共演者やスタッフは皆、勝の元に挨拶に出向き、そこから一日が始まる‥‥。
「ある時、オヤジが『アンディ、ジェラシーって意味がわかるよな』って。『嫉妬、ですよね』と答えると、『そう。この嫉妬でいちばん始末に悪いのは何だかわかるかい。男と男だよ。これほど始末に悪いものはない』と‥‥」