英雄色を好む──。これほど勝に似合うことわざは、ないかもしれない。「酒と女」に関する話は、枚挙にいとまがない。
「オヤジはよく江波杏子や倍賞美津子、藤村志保といった女優陣を引き連れて飲み歩いていたけど、大勢で飲む時はアイスバスケットの中にレミーマルタンを1本注いで、そこに水を少し入れて飲む。特にお気に入りだったのが太地喜和子。ある時、帝劇がハネたあと、太地がスッピンで勝のいる店に来てね、チークタイムになると、オヤジと二人で踊りだしたんだけど、ダンスというよりもう完全に男女が交わる感じの行為そのもの。そのくらい濃厚なダンスだったね」
まだ、日本の社会も牧歌的な時代。勝は大好きな酒を飲んだあとに、飲酒運転することもたびたびあったという。
「運転を代わろうとすると『バカ野郎、これは俺が好きでやっているんだ!』と怒られてね。ある時、酒場からの帰りに虎ノ門交差点で警官から職質を受けた。『勝さん、飲んでますね?』『いや、飲んでない』『えっ、でも‥‥』『ワインしか飲んでない』って(笑)。最後は『何かあったら、東プリ(当時の定宿、東京プリンスホテル)まで来い!』、そう言って車を出しちゃう。歌舞伎座に行く途中に一方通行を逆走したこともあった。警官から止められても『ん? 俺は聞いてないよ。とりあえず何かあったら東プリまで来い!』って(笑)。
一度、高速道路でも白バイに止められてね。いつもどおり『今、急いでいるんだ。あとで来てくれ』って言ったんだけど、今度は本当に稽古場を警官が訪ねてきた。マイッタなぁと思っていると、警官が俺に色紙を手渡して『あの~、これに勝さんのサインをお願いします』って。あの時は思わずズッコケたね」
勝はいつも100万円程度の金を丸めてポケットに押し込んでいたが、
「それが3、4日でなくなる。そのほとんどがチップだった。いつだったか、オヤジが『お前、俺がなぜチップを渡しているかわかるか? 格好つけているとか、金持ちぶっているとかじゃないんだよ。学ぶという言葉は、自分にとっていいお手本を見つけて、まずは真似る。次にまねぶ。そして、最終的に自分自身の道を見つけて、学ぶが始まる。演技もそう。俺はいろんなところで、一生懸命生きている人たちを毎日見させてもらっている。チップは生の演技を見させてもらっている授業料なんだよ』と。なるほどなと思ったね」
当然、勝の、芝居に対する要求はとどまることを知らない。時には共演者に対しても容赦ない“洗礼”があった。
「ある時、ハナ肇がオヤジの舞台に出演することになった。ところが、オヤジはハナの驚き方が喜劇的で気に入らなかったんだね。で、ハナを食事に誘って自分が運転する車で街に出た。道中、踏切にさしかかるとオヤジは遮断機が下り始めているのに線路内に突っ込んで寸前に通り抜けた。ハナは恐怖で絶叫する。その顔を見たオヤジは『本当に驚くと、そういう顔になるんだ!』と涼しげに言ったそうだよ」
黒沢年雄と共演した際もしかり。驚愕する演技が気に入らなかった勝は、黒沢と同乗した時に、実力行使に出た。一緒に乗っていた車をわざとぶつけ、黒沢に本当の恐怖を身をもって体験させたのだ。実はこの車は買ったばかりのリンカーンコンチネンタル。勝は黒沢を驚かすために新車を大破させたのである。