よくも悪くも話題をさらっている“仮想通貨”。ブームに乗り遅れてなるものかと意気込んで、一攫千金の夢を見ている向きには、細心の注意が必要だ。マルチ商法で鳴らした怪しげな連中がブームに便乗、あの「円天」の残党までもが跋扈しているのだから‥‥。
「家電量販店がビットコインでの決済を始めたのはご存じ? 中国の富裕層を当て込んだのですが、意外に日本人がビットコインで大きな買い物をしていく。これは最初にビットコインを買った人たちですよ。みんな金持ちになっている」
都内の貸会議室で開かれた投資セミナー。熱弁をふるう男がいた。ここではX氏とするが、この男は話術が巧みである。受講者に高齢者が多いせいか、時に健康問題に触れて気をそらさせない。そればかりか、なじみが薄い仮想通貨や電子マネーについては、わかりやすくかみ砕いて解説してみせるのだ。
核心に話題が移る時もしっかり冗談を織り交ぜる。
「これから説明する電子商品券共同体。この構想を『××』(セミナーでは実名)という会社の社長に話したら、『すばらしい』と賛同をいただいています。アイスブレイクは終わっています‥‥そう言うらしいんですよ。意味はよくわからないけどね(笑)。とにかく、いよいよ試合開始です」
受講者の笑いを誘ったところで、解説が始まった「電子商品券」というシロモノ。要は「もう一つの貨幣」を流通させるというもので、いわば「仮想通貨」なのだが、やや趣旨が他とは異なる。
X氏の説明によれば、中小企業400万社を組織して共同体を作る。1社当たり平均10人の従業員がいるとして、4000万人が属することになる。共同体には給料専用口座があり、そこに全社が社員の給料を振り込む。平均月給25万円と仮定して、月10兆円が集まる。あとは共同体から全社員に給料と同額の電子商品券を配布するという。
「中小企業が束になれば、大企業も従う。ふだんの買い物も公共料金も電子商品券で支払えるようになる。もちろん、電子商品券を換金しても結構。換金ソフトは開発済みです。でも、考えてみてください。電子商品券は無税。換金したら所得税、消費税を取られちゃう。これは大損。誰も換金しなくなります。税金を取れない国は潰れる? だから電子商品券は国家事業になっていくわけです」
X氏の壮大な話は続く。10兆円の活用方法も、企業に無担保で事業資金を融資、社員の給料は10カ月おきに1カ月分ベースアップ‥‥。政府もビックリの成長戦略である。仮想通貨への投資に興味を持ち、このセミナーに参加した70代の男性はこう話した。
「他にも行ったけど、『新しい仮想通貨を発行して、近く上場するから値上がり確実、今が買い時』の話ばかり。その点、電子商品券は違う。でも、話が大きすぎて、よくわからない。私は経営者でも会社員でもない隠居の身ですから‥‥」
高齢の受講者がシビレを切らすタイミングを見計らい、X氏はこう切り出す。
「今はこんなふうに経営者へのプレゼンをしているところ。今回、集まってもらった個人の皆さんには、2万円のこの本をオススメしたい。これで1000万円の権利がもらえるんです」
そのオススメ本というのが波和二著「これが円天だ!」なのだ。