歌やダンスにトークと、みずからの表現に長けたアイドルたち。その中でも選ばれし者たちのみに許されるのが文芸作品の発表だ。
アイドルを中心に、小説やエッセイなどの作品を世に問うた女性芸能人たち20人をピックアップ。その出来栄えを評価してみた。
○矢口真里「おいら─MARI YAGUCHI FIRST ESSAY」(ワニブックス 2003年10月)
〈明日香が卒業して、その4か月後にごっつぁんが、新メンバーとして加入してきた。もの凄い存在感! スタイルもムチャクチャいいし、年下なのに大人っぽい雰囲気。なんか“今ドキ”って感じがして。超アセったぁ(笑)。〉
モーニング娘。の初期が赤裸々に語られ、史料的な価値も見出せる。エッセイなのにまるでバラエティ番組を観ているかのようなジェットコースター感も爽快。まさに「やぐっちゃん」そのままの文体で、半年後に出た安倍なつみのエッセイが盗作騒ぎになったのとは対照的だ。
○菅なな子「アイドル受験戦記SKE48をやめた私が数学0点から偏差値69の国立大学に入るまで」(文藝春秋 16年3月)
〈つい昨日まで、電車に乗っている間は勉強する時間だった。でももう、英単語も古文の単語も、世界史の年号だって、覚えなくちゃいけないことは、私には何一つなかった〉
中3でSKE48に加入した作者が、グループ卒業後に一念発起して、進級も危ぶまれていた状況からみごと、名古屋大学に合格するまでの合格ストーリー。アイドル時代と受験生時代という2つの異なる生活を、現役学生ならではの身近な視点で描き、地頭の優秀さを実感させる。
○吉木りさ「誰かさんと誰かさんがネギ畑」(竹書房 13年6月)
〈幸恵は、教師に顔と名前をなかなか覚えてもらえないタイプだ。目立たない。印象が薄い。小学校の頃からそうだったから、中学でもあきらめていた。でも沢田先生は、いつも「岩田」と呼んでくれた〉
人生の分岐点に立つ「25歳の女子」がテーマの短編集。古風なイメージを持つ吉木らしく昭和レトロ感にあふれる描写には懐かしさすら感じる。文芸作品としては新人作家の卵の域を出ないものの、吉木のファンなら彼女の多彩な表現のひとつとして押さえておきたいところだ。
○今野杏南「撮られたい」(TOブックス 14年4月)
〈彼はシャッターを押す手を止めずに、撮り続ける。私は連続的に鳴るシャッター音を聞き、より下半身が熱くなってくる。そして目の前にあるモノを、思い切り口いっぱい頬張った。〉
人気グラドルが、迫真の艶シーンを生々しく描写。あくまで想像をもとに書いたというが、今野のファンならずとも頭の中に彼女の肢体を思い浮かべながら読むことは間違いなし。すべてをiPhoneで書いたという点も、新世代の台頭を感じさせるエピソードだ。