歌やダンスにトークと、みずからの表現に長けたアイドルたち。その中でも選ばれし者たちのみに許されるのが文芸作品の発表だ。アイドルを中心に、小説やエッセイなどの作品を世に問うた女性芸能人たち20人をピックアップ。その出来栄えを評価してみた。
○高山一実
「キャリーオーバー」(ダ・ヴィンチ ニュース掲載 2016年1月)
〈僕を散々いじめてきた奴らへの復讐だ。有り金でその手のプロを何人も雇ってそいつらの幸せを全部潰してやる。一人残らず絶望の淵に突き落としてやるのだ。僕は微笑みながら宝くじ売り場を探した〉
乃木坂46の高山がウェブにて発表した短編小説。雑誌「ダ・ヴィンチ」の連載「乃木坂活字部!」の一環で書かれたもので、人格を持つ宝くじという突飛な設定と構成はまさに「才能あり」を差し上げたい。2作目の長編小説「トラペジウム」ではさらなる進歩が見られただけに、今後の文筆活動に期待したい。
○嗣永桃子「嗣永桃子卒業アルバム」(ワニブックス 17年7月)
〈シングルの『VERY BEAUTY』でソロが無くなったり(笑)。当たり前ですよね、プロデューサーの言うこと聞かないんですもん。まぁ、そんなこともあったけど〉
ハロプロのアイドルグループ「Berryz工房」の“ももち”こと嗣永が卒業記念に著したフォトエッセイ。「卒業文章」と題された後半でオーディションから卒業を決意するまでアイドル人生を振り返っている。文芸的な要素は薄いものの、嗣永ファンなら興味深く読める作品だ。
○仲谷明香「非選抜アイドル」(小学館 12年4月)
〈名前や顔を知られていない「非選抜組」が、その何倍も控えているのだ。そうして私も、その一人だった。AKB48に入ってからもう五年が経とうとしているけれど、一度もそのポジションから抜け出せたことがなかった。〉
中学の同級生だった前田敦子を追ってAKB48に加入したものの、一度も選抜メンバーに選ばれないみずからの悲哀を乾いた文体で表現。アイドルの自叙伝が日記風になりがちな中、濃密なアイドル生活の浮き沈みを客観的な視点で観察しており、人生論としても読みごたえ十分だ。
○山本彩「すべての理由」(幻冬舎 17年3月)
〈グループにいながらも疎外感というか、孤独を感じる部分はずっとあります。今もたまに、自分対その他のみんな、というふうに世界が見える時もあります。私はそれを、自分で選びました。そうするべきだ、と思ったので〉
NMB48のさや姉が「全部さらけ出します」とした初のエッセイ。アーティスト性が強い彼女らしく、その文体は独特なリズムを刻む。孤高のリーダーが歩む、他のメンバーと距離を置いたアイドル人生論は、これから芸能界を目指す女子たちにとって大いに参考になるはずだ。