長年連れ添ってきたパートナーと、介護を機に別れる──。3組に1組もの離婚大国になってしまった日本において、近年、こうした「介護離婚」が実に多いという現実がある。妻が愛想を尽かして介護を放棄、あるいは夫の財産を手にして出ていく。その引き金になるのはいったい、何なのか。
同居35年以上の夫婦の離婚件数は、この30年で6倍になったという。「男の離婚ケイカク」(主婦と生活社)などの著書がある離婚問題アドバイザー・露木幸彦氏のもとにも、熟年離婚の相談があとを絶たない。
──とある介護施設には傍若無人にどなり散らす老人がいた。
「早く家に帰らせてくれ。さっさと家内を呼べ。俺を誰だと思ってるんだ!」
相談者は富田茂さん(42)=仮名=。茂さんには施設での暴言の主、78歳の父親・功さん=仮名=、そして76歳の母親・美津子さん=仮名=がいるが、2週間前、功さんが自宅で突然、倒れたのだ。
緊急手術の末、一命を取り留めたが、脳梗塞の後遺症で滑舌が悪かった。功さんは現役時代、税務署の署長を務めたほどの人物であり、社会的地位も高い。そのせいか、自分の思いどおりにならないと周囲に当たり散らす。美津子さんは約50年、功さんの暴言に虐げられてきたのだ。
積もり積もった鬱憤。美津子さんは離婚の衝動に突き動かされた。だが、功さんが脳梗塞で倒れたのは今回で3回目。すでに医者からは「次はない」と宣告されていた。もしかすると今、わざわざ離婚しなくても、夫が先に亡くなるかもしれない。
「美津子さんは顎をガクガクと震わせ、時折、涙を浮かべていた。私が『もう少し我慢すれば』と軽々しく口にするのもはばかられる状況でした」(露木氏)
美津子さんは、
「離婚さえできれば、あとはどうでもいい」
とさえ言ったのだ。
26年前に母親、20年前に父親を亡くした美津子さんは一人娘だったため、土地だけで2000万円以上の価値がある実家の遺産のほとんどを引き継いだ。その遺産には手をつけずに、実家の土地は美津子さん名義のまま貸し出していた。預貯金も8割方、残ったままだった。功さんは美津子さんの「夫」なので、美津子さんにもしものことがあれば、財産は持っていかれる。それがどうしても許せなかった。
美津子さんの父親の葬儀には当然ながら、夫婦2人で出席する予定だったが、功さんが突然、「急用ができた」と言いだし、自宅へと戻ってしまった。問いただしてみると、急用とは「仲間内のゴルフ」だったことがわかる。
「生前にさんざん、助けてもらい、迷惑をかけた父の最期にすっぽかすなんて、許せない」
露木氏が言う。
「功さんが入所した施設に私が交渉に出向くと、功さんが施設長に指図して自宅から貴重品を持ち出していました。ATMで数十万円を引き出させたのです。施設の食堂を貸し切り状態にして、金儲けの話で盛り上がっているところでした」