「寝たきりになる前に、別れたいんです」
石井雅美さん(50)=仮名=は、切実な悩みを露木氏に打ち明けた。夫が仕事中に倒れたのは、相談に来る3カ月前。多発性脳梗塞後遺症と診断されて、両手両足に麻痺が残ったため、移動には車椅子を要する。食事や身の回りのことは全て介助が必要な、要介護度3と認定されたのだ。
以前から、夫は暴飲暴食と大量飲酒を繰り返し、高血圧で肥満体質。夫の母親や雅美さんが再三再四、注意していたが、聞く耳を持たなかった。
夫は倒れるまで33年間、働いてきた会社を退職せざるをえなくなった。だが、職場復帰を諦めておらず、最初は「リハビリを頑張る」と豪語。脳梗塞患者用のトレーニングジムに通った。しかし、2週間もたたないうちに妻の目を盗んでパチンコ三昧。雅美さんがとがめると、こういきまいた。
「だいたい会社にコキ使われたから会社にも責任がある。あれはブラック企業だ」
雅美さんが毎朝、夫を風呂に入れようとすると「風呂なんて入らなくても死なない」と拒む。さらに、毎晩のように粗相をするので「オムツをしてください」と頼むも、プライドを傷つけられたのか、「バカにするんじゃねぇ!」と激怒。さすがに堪忍袋の緒が切れてしまった。
露木氏は雅美さんに、「先々、離婚が避けられないのなら、今しかないのでは」と口添えしたという。
そしてついに、雅美さんが三行半を突きつけると、
「どういう意味だ。夫婦はお互いに助け合う義務があるのに、それはないだろう」
そして頭に血が上ったのか、夫は逆ギレする。
「セックスだ。手足の麻痺でセックスができないから、お前と結婚していても意味がない。だいたい病気になったのは、お前がストレスを与えたせいだろ。そのせいで酒の量が増えたんだ」
夫の暴言はさらにおかしな方向へとエスカレート。
「紙切れ一枚で俺を縛りつけるな。(セックスできないなら)お前なんている意味がない」
さんざん揉めたあげく、夫は捨てゼリフを吐き、離婚届に捺印したのだった。
露木氏が言う。
「夫婦の間に信頼関係が存在せず会話も成立せず、ケンカを繰り返してすでに夫婦の形を成していないとしたら、一定の確率で介護放棄離婚に踏み切るでしょう。心配だったら、ご自分の夫婦仲を見てみることです」
以下が、介護離婚の危険度チェックリストだ。
1.すでに夫の介護を始めているか。
2.夫との仲はどうか。
3.過去に離婚の話をしたことがあるか。
4.過去に「もし夫が倒れたら、どのように暮らしていくか」を個別具体的に検討したことがあるか。
5.夫を任せられる兄弟姉妹などが他にいるか。
人生の終盤に、予想外の事態に見舞われないよう、今から十分気をつけておいてはどうだろうか。