男女の性別によって発症率が大きく違う病気があるのをご存じでしょうか?
特に虚血性心不全という病気です。これは心臓の血管が硬くなり、心臓に酸素が行かなくなった結果、狭心症や心筋梗塞を引き起こす疾患です。心臓の働きが悪くなったまま、残った部分がかろうじて動いている状態を指します。文字どおり、血管の詰まり=虚血から起こる心不全です。「動くと疲れやすい」「息切れをしやすい」などが前兆となります。
そもそも、虚血性心不全は心筋に栄養を送る血管「冠状動脈」が動脈硬化を原因として狭窄、閉塞することで発症します。
動脈硬化は女性ホルモンである「エストロゲン」が予防効果を果たします。エストロゲンは血管をしなやかにして内臓脂肪の分解をしやすくする働きがあります。つまり女性は閉経するまでは動脈硬化にかかりにくいのです。もちろん閉経後は男性と同じ条件となりますが、閉経後=スタートが遅い分、男性に比べて狭心症や心筋梗塞になりにくく、男性のほうが虚血性心不全にかかりやすいのです。
動脈は血流に合わせて1日10万回も拡張と収縮を繰り返し、体の隅々まで血液を送り届ける役割があります。本来は十分に太くて軟らかな動脈が硬くなる症状で、狭心症や心筋梗塞のほか、脳梗塞などさまざまな病気を引き起こします。
例えば動物性脂肪の多い高カロリー食を続けると、血中のコレステロールや中性脂肪が増え、脂質を増加させます。つまり肥満となるわけですが、肥満による脂肪が血管壁に付着して血管が詰まり、動脈硬化となります。
こうした動脈硬化の危険因子は「高血圧」「脂質異常症」「喫煙」「肥満」「糖尿病」「ストレス」であり、これらは全て生活習慣が原因の病です。このように男性は、生活習慣病にもかかりやすいとも言えるのです。
高血圧は「体重を減らす」「塩分を減らす」「適度な運動をする」の3つで改善されます。糖尿病も「体重を減らす」ことで血糖値が下がります。毎日の炭水化物の摂取量を半分にするだけで改善されますし、中性脂肪が高い人は糖質とアルコールを制限するだけで低くなります。1時間歩きなさい、と言われたら30分の徒歩運動から始めるだけでも、症状はよくなります。タバコが原因で健康を害しているなら、禁煙をするのが大前提です。基本は「よいことをする」よりも「悪いことを避ける」こと。散歩をするよりも禁煙するほうが、何十倍も寿命が延びます。
生活習慣病にかかった患者は「病院へ行って薬を飲めば病気は治る」「いい薬を飲むことで病気は治る」と信じていますが、これは大きな考え違いです。
そもそも日本人は必要のない薬を飲みすぎています。医師は患者に治療法を説明するよりも、薬を飲ませることで診療時間を短くさせています。患者に説明をするほど診療時間は長くなりますし、患者とのトラブルも招きかねません。黙って薬を出すことで医師の仕事は楽になるわけです。
患者側にも問題があります。病院が薬を出さないと「薬もくれなかった」とこぼしますが、患者は何のために通院するのか。薬をもらうためではありません。病気を治してもらうためです。不必要な薬を飲むほど体によけいな負担をかけ、別の症状が現れる危険性もあります。複数の薬を飲むほど人体への負担も大きくなります。
動脈硬化が進み、脳梗塞や狭心症になった場合は薬も必要ですが、生活習慣病が気になる人は、後戻りできなくなる前に生活習慣を改善してください。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。