国中の男が彼女に心を奪われたという。そんな美人の代名詞になっている小野小町の美貌を作ったのが、今や美容の定番になっている“コラーゲン食”だったのである。
クレオパトラ、楊貴妃と並ぶ世界3大美人の一人が小野小町だが、平安時代前期の女流歌人ということ以外、生没年、父母、経歴などは諸説があって不詳。謎が多い女性なのだ。とはいえ、絶世の美女であったことは確かなようで「草子洗小町」にはこうある。
〈幸運にも小町と目を合わせることができた男どもは、たちまち呆けたようになって発熱し、ぶらぶら病になる者が少なくなかった〉
それでも小町は、言い寄る男性たちの求婚を片っ端から断り続けて生涯独身を貫いた。彼女はめったに素顔を見せなかったとも言われているが、美の追究には貪欲で、美貌にいいと聞くや各地から豪華な珍味を取り寄せて、この世の贅を味わっていたのだった。
平安時代中期の作と見られる「玉造小町壮衰書」には、彼女の食した料理が記されている。彼女の食膳には、彼女のリクエストに応じ日本各地から集められた山海の珍味があふれていた。一部を抜き出すだけで、うなぎのあぶら身、ウズラの汁物、鴨の熱汁、がんの塩辛、きじの蒸し肉、大がんの鱠、熊の掌、うさぎの脾臓、煮たるあわび、煎りたるはまぐり、かにの大爪、たにしの胆、かめの尾、鶴の頭部、鯉の旨煮、とコラーゲンたっぷりの食材、料理が並ぶ。川田氏が説明する。
「彼女の料理は、コラーゲンが豊富な食材が多い。コラーゲンは肌のハリや弾力の維持などの美容効果には欠かせないものですが、関節の動きをスムーズにするので腰痛や膝の痛みにも効く。また、骨の成分もコラーゲン。コラーゲンが少なくなると、骨が弱くなります」
小町は熊の掌を好んだというが、手に入らない時はもっぱら鯉を食したという。
「鯉はもともと、薬効として使われていたが、コラーゲン、ビタミンB1などが多く含まれているので、むくみや疲労によく、美容効果も高い」(川田氏)
食文化研究家の永山久夫氏は、小町の食生活をこう評する。
「小町の卓越している選択眼は、フルコースの中にショウガを添えるのを忘れなかったことです」
解毒、消炎作用のあるシネオールや強い殺菌作用のジンゲロール、そして血行を促進し、体を温め新陳代謝を活発にするショウガオールが含まれている。
「小町がこれだけの山海の珍味を食べても食中毒を起こさなかったのは、ショウガの効能と言っていい。ショウガを食べるとホルモンの分泌が盛んになるので、コラーゲンの効果も倍増したのでしょう」(川田氏)
男でも肌のハリとツヤの維持は老化防止になり、モテるポイントとなる。
【小野小町が愛した「鯉の旨煮」】
◎材料:鯉1.6kg(2cm厚の筒切り7切れ)、ショウガ1かけ(20~30g)、砂糖600g、醤油2カップ、酒4カップ程度、水3カップ程度、赤ざらめ100g
◎作り方:(1)鍋に鯉を入れ、ひたひたになるまで酒を入れる。次に水を鯉の1~2cm上まで加え、スライスしたショウガも入れる。(2)砂糖と醬油を入れ、落とし蓋をして沸騰させる。(3)アクをていねいに取り、弱火で煮詰める。(4)水気がなくなり、身の表面にきれいな照りが出てきたらできあがり。※鯉をさばく時は、肝をつぶさないように取り除く。つぶしてしまうと苦くて食べられなくなってしまう。煮詰めすぎると固くなるので注意。