歴史を振り返れば、性生活に貪欲な美女はかくもいたのか。その背景にある食の秘密を探った。
「聡明で偉大な政治家」「ロシアの母」ともたたえられたエカテリーナ2世(1729~1796)は、ロシアをヨーロッパの強国とする礎を築いた女帝である。
一方では、奔放な男性との関係をエンジョイした女帝でもあった。
ロシアの政治・文学に詳しいジャーナリスト・木村芳雄氏が言う。
「彼女はドイツの貧しい貴族の出です。15歳の時にピョートル大帝の孫・ピョートル3世と結婚します。ところが彼はまったくの暗愚で病弱。こんなエピソードがあります。結婚するとピョートル3世は夜な夜な彼女の寝室にやってくる。しかし、新婚の甘い期待を抱く彼女の前で、彼は玩具の兵隊を並べて、奇声を発しながら兵隊ごっこに興じるのみ。そして、遊び疲れるとそのままベッドで寝入ってしまう。この様子を知った女帝・エリザベタが『相手は誰でもいいから、早く世継ぎをつくりなさい』と命令するんです。このひと言で彼女の多情多淫さに火がついた」
いったん堰を切った情欲は生涯衰えなかったという。美男子たちを寝室にはべらせ、取っ替え引っ替え。愛人の数が100人は下らなかったと言われる。67歳でその淫蕩な生活に幕を下ろすまで、パワーの源になったのはやはり食事。鉄人のごとく健康体の彼女は食欲旺盛だった。何でもよく食べたが、中でもフルーツが好物で、イチジクやスイカに目がなかったという。
先の秋好氏が語る。
「イチジクもスイカもすごい強壮・強精作用がある。イチジクの成分プソラレンは血圧を降下させる働きがあり、スチグマステロールは血液中のコレステロールを低下させ、ルチンが血液の流れをよくし、血管を丈夫にする。またスイカにはシトルリンという成分が含まれており、それが体内でアルギニンというアミノ酸になって、バイアグラの主成分と同様、一酸化窒素を活性化して血管を拡張、血流促進効果がある。また種子は漢方では強壮剤として使われています」
世界3大美女として名高い楊貴妃(719~756)は、後宮3000人という唐の皇帝・玄宗の寵愛を一身に受けた。玄宗が息子の正妻から自身の側室へと引き立てた時、玄宗61歳、楊貴妃は27歳だった。それに応えるべく美貌を維持し、スタミナをつけるため、楊貴妃はありとあらゆる強精剤を愛用したというが、一番のお気に入りで効果抜群だったのが果物の茘枝(ライチ)だったという。
「茘枝には葉酸やビタミンC、カリウムが豊富に含まれており、疲労回復にばっちり。ただ食べすぎると鼻血が出るほど精がつく」(秋好氏)
楊貴妃はグラマーでポッチャリし、歌舞がうまく、音律に通じ、しかも聡明だった。玄宗は楊貴妃が湯浴みする時の裸身をめでるのが好きで、ライチを食べながら戯れていたという。
1911年、300年続いた清王朝が倒れ、有史以来3000年以上も続いた中国王朝に幕が下りた。その清王朝の幕引き役が、唐代の則天武后と並び、「烈女」「猛女」「悪女」と呼ばれた西太后(1835~1908)だった。
西太后は、歴代の皇帝たちと違い100枚以上の写真が残されており、その実像を見ることができる。その多くが1903年、70歳の誕生日を前に写されたものであるが、若々しく、肌ツヤもよさそうに見える。
御多分に漏れず西太后も好色で、その乱行ぶりは歴代の好色皇帝に劣るものではなかったという。そのスタミナと美貌とパワーのもとはやはり「食」である。西太后は中国史上指折りの美食家と言われ、贅を尽くして医食同源を体得していたのだ。
彼女は海産物をほとんど食べず、好んだのは鴨肉だったという。
「鴨肉の特徴は、ビタミンB群や鉄分が豊富に含まれていること、脂肪分が体によい効果をもたらす不飽和脂肪酸であること、デトックス効果があることです。ビタミンB群は、美肌や美髪効果があり、細胞の再生、肌の生まれ変わりにとても重要です。鉄分には、老け込み防止効果もありますね」(川田氏)
西太后は蒸した鴨の料理を、数百人はいたというコックに注文していた。美を追求するスケールが違うのである。