イギリス王室の恋多き王妃No.1はヘンリー2世の王妃、アリエノール・ダキテーヌ(1122~1204)だ。奔放に、エネルギッシュに生きた彼女が愛飲した「イポクラス」とは──。
イギリス王室といえば、チャールズ皇太子がダイアナ元妃に不貞を問い詰められた時、「他に女性を持たない唯一のウェールズ公にはなりたくない」と答えたと報じられているように、不貞の問題は「伝統」。だが、古きイギリス国王たちの色恋ざたは現代の比ではなかった。それは女王、皇后においても変わりはない。中でもアリエノールは、飛び抜けて恋多き女性だった。
14歳の時には社交界を取りしきる存在で、容姿端麗だったため、宮廷でのお相手には事欠かない人気者だったという。この時期に父が死に、遺言によりフランス王・ルイ6世が後見人となり、息子のルイ7世と政略結婚。15歳でフランス王ルイ7世の妃となった。
ところが性格が合わず、結婚生活は15年でピリオド。彼女の家臣との浮気や、叔父との不倫、美男のトルコ人奴隷との浮気などがその原因と言われている。
宗教会議でようやく離婚が認められたアリエノールは、なんとその2カ月後、のちのイギリス・プランタジネット王朝の始祖となるノルマンディ公ヘンリー2世と結婚式を挙げたのだ。この時、彼女は30歳、ヘンリー2世は19歳である。
似たもの同士の夫婦は夫も浮気し放題だった。そして2人ともあまたの珍奇な媚薬を愛用していたという。その代表が「イポクラス」だ。これは「医学の父」と言われている、古代ギリシアの医師・ヒポクラテスによって発明されたという効果抜群の強精酒だ。
レシピにも記したように、材料は全てスパイス(東洋で言う生薬)。その効能効果を漢方に詳しい管理薬剤師の濱屋芳郎氏が解説する。
「カルダモン、ショウガ、ニクズク、カヤツリグサは呼吸器官の不調を正し、腸内環境を整えてくれ、発汗、解鬱(かいうつ)、浄血作用がある。そしてシナモン(生薬名は桂皮)は、中国では古くから『薬物の王』と称され、万能薬扱いです。血管を丈夫にするので、あらゆる症状の改善に効果がある」
イポクラスはワインにつけ込む。ワインのポリフェノールの健康効果はよく知られているところだ。
「特に赤ワインに多く含まれているレスベラトロールは、細胞の代謝を促進する長寿成分です。美容にも効果が高い」(川田氏)
ヘンリー2世は脳内出血で倒れ、56歳で死去したが、アリエノールはイポクラスを飲んで若い男性のエキスを吸収し続け、82歳まで長寿人生を謳歌した。
媚酒・イポクラスの作り方は簡単。材料も比較的簡単に入手できるので試してみてはいかがだろう。
【アリエノールが愛した「イポクラス」】
◎材料:シナモン30g、粉末シナモン60g、ショウガ30g、カルダモン(和名:ショウズク)30g、ニクズク(ナツメグ)の種10g、カヤツリグサ少々、ワイン1リットル、砂糖(上質のもの。氷砂糖やハチミツならなおよし)220g※全て、デパートやスーパーなどのスパイス売り場で手に入る。
◎作り方:(1)材料を混ぜ合わせる(できたら粉末状)。これをワイン(赤がおすすめ)に入れる。(2)さらに砂糖を加えて、冷暗所で3カ月以上寝かせる。※長期間寝かせたほうがまろやかになり、効果も増す。味はワインの酸味が効きながらも甘くおいしい薬酒。飲みすぎに注意。