死や大病に直結しない病気は「大したことない」と思われがちですが、「実は怖い」とされる症状も少なくありません。
例えば、歯茎から出血する歯周炎は痛みがないため放置されがちですが、歯周病に進行すると口臭がひどくなり、歯もグラグラして抜けてしまいます。歯周病になって糖尿病や肺炎、心臓疾患、骨粗鬆症などの大病を患う確率も高まり、さらには認知症が進行する危険性もあるので、想像以上に怖い病気と言えます。また、不眠症も長引くとホルモンバランスが乱れて肥満につながります。高血圧や脳梗塞などの要因である動脈硬化にもつながりますし、ホルモン分泌が少なくなるため、自覚症状がないままうつ症状が出る可能性もあるほどです。
同じように甘く見てはいけないのが、梅雨の時期に増える水虫です。では、ここで問題です。水虫でやっかいなのは「乾いた水虫」と「湿った水虫」のどちらでしょうか。
乾いた症状も湿った症状も、どちらも本人にとってはかゆくてやっかいですが、他人へのうつりやすさや大病の危険性を考えると、「湿った水虫」のほうが何倍も危険です。
乾いた水虫は水虫菌(=白癬菌)が飛散しにくく、他人に移りにくいという特徴があります。かゆみこそあれどうつりにくいため、症状が広がりにくいのです。
対して、湿った水虫のジュクジュクの症状は白癬菌だらけです。水虫を潰した際、白癬菌を含んだウミが飛ぶなど人から人へと広がりやすく、また他人にもうつしやすい症状なのです。
この湿った水虫、治療を間違えると大変なことになります。ステロイド軟膏のように、塗ってはいけない薬があるのです。水虫は白癬菌による皮膚感染症で、免疫抑制作用のあるステロイドを塗ると免疫細胞の力が弱まり、病原菌に対抗する力が失われます。数時間後、指と指の間が湿っていただけなのに、足の甲全体に広がることすら珍しくありません。くれぐれも自分で治療せず、医者から処方された薬を塗ってください。
さらに怖いのは、水虫菌が皮膚のバリアを突き破り、蜂窩織炎を引き起こすケースです。発熱や寒気、関節痛などが起こり、ひどい場合には38度以上の高熱に見舞われ、足が真っ赤に腫れ上がります。こうなると抗生物質を投与せねばならず、当然ながら入院を余儀なくされます。
昔は蜂窩織炎は釘などを踏んだ箇所から雑菌が入り、足を切断しなければならないほど重い症状でした。最近は蜂窩織炎の原因を見ると、ほとんど水虫です。広がりやすくうつしやすく、治療が難儀であり、体の中に入ると大病となるなど、湿った水虫は乾いた水虫の何倍も怖いのです。
蜂窩織炎の予防法は細菌を寄せつけないに尽きます。手洗いやアルコール消毒を徹底して水虫の治療を怠らないことです。幸い、医学が発達した現在は治療法も確立され、病院で処方されている飲み薬や塗り薬は劇的に進歩しており、きちんと治療すれば100%治ります。
完治したと思っても「またできてしまう」のも水虫のやっかいな点です。水虫とは、見た目で症状が消えても菌が残っています。つまり完治していないため、半年ほど薬を塗り続けてください。抜いても抜いても生えてくる雑草と同じで、完璧に治すには根っこから絶やす必要があるのです。
湿った水虫は広げないのが肝心ですので、家族に移さぬためにも、スリッパを自分専用としたり、家の中で裸足にならないなどの注意を払ってください。指と指をくっつけないためにも、5本指のソックスは必需品です。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。