6月18日に起きた大阪北部地震では5名の方が亡くなり、26件の火災が発生しました(6月28日現在)。1923年に気象庁が観測を開始して以来、大阪で震度6弱以上の揺れを観測したのは初めてだそうです。
阪神・淡路大震災や東日本大震災などの大規模地震の被災者の中には、心的外傷後ストレス障害、いわゆるPTSDの症状を訴える人が多くなります。
PTSDとは天災や事故、犯罪、虐待、テロ、戦争、体罰、強姦などさまざまな事象から強い精神的衝撃を受けることが原因で、苦痛や生活機能に障害をもたらすストレス障害のことです。具体的な症状として、死の恐怖を感じたり、心身に支障を来して社会生活に影響を及ぼします。ショックを受けたあと1カ月以上たってから発症するケースが多く、強い恐怖や無力感が1カ月以上続くとPTSDと診断されます。ではここで質問です。PTSDの治療として、カウンセリングと薬物療法のどちらがより効果があるでしょうか。
11年の東日本大震災の直後、福島原発の近くで介護士をしていた女性は「一緒に連れていけない」という複数の家族から高齢者を預かり面倒を見ていたそうです。女性は同僚スタッフがいなくなる中、眠る時間を削ってまで介護を続けた結果、人間不信に陥ったそうです。被災地でなくても余震の恐怖で眠れなくなり、心療内科を訪れる方が増えました。今でもJアラートの警報音を聞くと当時の記憶がフラッシュバックする、という方もいらっしゃるそうです。
こうした、あらゆる情報がテレビやネットで見られる情報化社会も、PTSDの一因とも言われています。東日本大震災の際は津波の映像が繰り返し流されるなど「マスコミがPTSDを作っている」面もありました。
PTSDの治療については、薬を服用するのも一つの改善方法です。しかし、精神安定剤は恐怖に反応しないように感受性を鈍くさせると同時に、仕事や日常生活に支障を及ぼす可能性もあります。気力が衰えて、ひどい場合には依存症に陥る危険すらあります。
まずは、薬を服用する前に、カウンセリングでメンタルを回復させるように努めるのが基本的な治療法となります。つまり、対話により、恐怖やトラウマを少しずつ取り除くのです。
例えば「地震による死の恐怖を感じている」そんな人には“地震で死ぬ確率”についてお話しします。
「地震国の日本に住んでいるかぎりしかたないですが、地震で死ぬ確率は交通事故や飛行機事故より低いです。交通事故で死ぬ人は1年間に約4000人ですが、だからといって怖くて道路を歩けない、という人はいません。地震で死ぬ人を平均化すると交通事故やガンで死ぬ確率の何倍も低いです」
続けて、こうお話しします。
「杞憂という言葉をご存じですか? 杞とは古代中国の国の名前ですが、この国に住んでいた人が『空が崩れ落ちてきたらどうしよう』と心配していたそうです。つまり起こるはずのないことを憂いてもしかたない、取り越し苦労という意味です」
こうした話に耳を傾けた人には、続けて耐震構造など地震に備えるための知識をお話しします。あるいはグループセラピーや催眠療法、自己暗示療法など、さまざまな方法を試みて、それでもダメな場合は次の段階として「薬物療法」となります。とはいえ悲惨な光景を目の当たりにした方にはカウンセリングも効果が見られないケースがあります。精神的ショックが大きいほど薬物療法も致し方なくなりますが、薬に頼るのは最後の手段とするべきです。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。