ノーベル賞を受賞した本庶佑先生の免疫療法研究は、がん治療に新たな道筋を作りました。
がん治療は「手術」「放射線治療」「抗がん剤(薬物療法)」が三大治療法とされています。
手術は体にメスを入れてがんの病巣を取り除きます。放射線治療は、放射線を当ててがん細胞を死滅させたり、症状の進行を防ぎます。抗がん剤はがん細胞の成長を遅らせたり、がんの転移を予防するため薬物を投与します。
今回のノーベル賞受賞の発見となった「第四のがん治療」とされる免疫療法とは、体に備わっている免疫の能力を高め、がん細胞をやっつける方法です。三大治療法に比べて即効性は低いものの効果が長く続き、抗がん剤に付きものの副作用も少ないようです。
人間は誰でもがん細胞を持っており、健康な人でも5000~1万個前後の細胞が毎日、がん細胞に変わっています。このがん細胞を、体内に50億個も存在する自然免疫細胞のNK(ナチュラルキラー)細胞やT細胞がやっつけている間はがんにはならず、また感染症などにもかかりにくくなります。ただし、ストレスを抱えるほど免疫細胞が弱まり、がんになるリスクは高まります。
NK細胞はがん細胞やウイルスなどを排除する際に力が強まり、強まりすぎると自然に弱まりますが、これをアクセルとブレーキに例えられます。ブレーキ状態ではがん細胞を攻撃しなくなりますが、これをアクセル状態に復活させてがん細胞を排除するのが免疫療法の仕組みです。
抗がん剤はがん細胞を殺す代わりに副作用も多く“毒薬”とも言われがちですが、免疫療法で使用される薬にはがんを「殺すほどの力」はありません。副作用も抗がん剤ほどきつくはないのです。
ではここで質問です。本庶先生はT細胞のPD-1という細胞分子を発見し、がん細胞を攻撃するという免疫療法につながりました。そのうち胃がんと血液がんで、免疫療法が効きやすいのはどちらでしょう。
現状の免疫療法は胃がんやメラノーマ(悪性黒色腫=ほくろのがん)、一部の肺がんや膵臓がん、膀胱がんなどで効果が得られやすいとされています。しかし、白血病や悪性リンパ腫といった血液がんでは、NK細胞やT細胞ががん化している場合があり、免疫療法ががん細胞を増殖させてしまうケースがあるとされています。
正解は胃がんとなりますが、本庶先生のノーベル賞受賞で広く知られるようになった治療薬のオプジーボも、がん患者全員に効果があるわけでありません。個別のがん細胞の状態などにより、適応するか否かが人によって異なります。また副作用もいつどの程度生じるかの予測が完全にはできていません。
国に認証され診療ガイドラインに推奨されている薬も、オプジーボなど数種類ありますが、オプジーボも疲労や発熱、食欲不振のほか、皮膚や肺に障害が生じる可能性があります。抗がん剤と一緒に使うと効果を打ち消し合う可能性もゼロではなく、免疫療法を骨折により中断したとたんにがんが再発、進行も急速になり死亡したという例も報告されています。
つまり、まだ発展途上段階の免疫療法であり、データが蓄積されていないのです。中には厚労省に承認されていない薬もあり、そうした薬には保険も適用されていません。数百万円もの治療費がかかる自由診療を行っている病院もありますが、免疫療法を受ける前に「その免疫療法がどういったものか」「治療の効果が証明されているか」「保険診療ができるか」「副作用はどうなるか」などを慎重に確認する必要があります。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。