肩凝りは、腰痛とともに日本人の国民病と言えますが、そのメカニズムをご存じでしょうか。
肩凝りとは、肩の血行が悪くなる血行障害です。ほとんど動かず同じ姿勢でいたため、血液の循環が悪くなり、筋肉に乳酸などの疲労物質をためてしまうのです。運動不足や偏った体の使い方など、要因はいくつかありますが、いちばん大きなものは「同じ姿勢を長時間続ける」ことです。
「一日中パソコンを見つめながらほとんど動かない」「テレビに釘づけになって同じ姿勢を3時間も4時間も続けて肩が凝った」など、こんな経験は誰にでもあるでしょう。 肩凝り予防策としては、肩を叩いたり、ストレッチで筋肉をほぐすことです。血行も改善され「イタ気持ちいい」状態となるわけですが、ここで今週のお題です。慢性的な肩凝りは「温める」か「冷やす」かどちらが効果的でしょうか。
すでにおわかりの方もいると思いますが、正解は「温める」です。お風呂につかると、いつしか肩凝りが消えていることがありますが、これは肩が温められているからです。肩叩きは肩を叩くことにより温まり、血流をよくします。運動をすると肩凝りが軽くなるのも、体を動かすことで血流がよくなるからです。
肩凝り解消の基本はまず「血流をよくすること」です。同じ姿勢でいる=血流が悪くなるのも、言いかえれば運動不足が原因なのです。ストレスがたまった状態で同じ姿勢でいると血流は悪くなりがちです。
肩凝りのみならず腰の痛みや首の凝りも、温めるだけでかなりよくなります。温泉で肩凝りが治るのは文字どおり温浴効果です。温泉地につきものの指圧療法も血流をよくしてくれますが、指圧をせずとも、熱いタオルを肩に乗せたり首に巻くほうが効果的です。ストレッチを取り入れればさらに効果が上がります。
しかし、一見、効果がありそうに思われる「マッサージチェア」は健康被害のリスクが高いと言えます。多くの人が強めのマッサージを好みますが、これにより圧迫骨折や内出血などを受けることがあります。プロの指圧師は指先の感覚で、患者にフィットした力の強弱をつけて肩凝りを改善してくれますが、機械だと気持ちよさからやりすぎてしまい、あとから揉み返しなどを覚えることがあります。なので、2セットも3セットもやるべきではありません。
記録的猛暑だったこの夏、エアコンをかけすぎて肩凝りがひどくなった人は少なくないと思います。これも体を冷やしすぎたことで筋肉が硬直し、さらに血流を悪くしてしまったわけです。慢性的な肩凝りでは温湿布を貼るのも効果的です。
ただし、肩凝りとは異なる強い痛みの場合は、この限りではありません。例えば草野球で肩にデッドボールを受けたなど、打撲や捻挫などによる「肩の痛み」の場合、冷湿布のように最初に冷やしたほうが炎症が静まり、痛みも和らぎます。炎症が治まったあとは温めるのが正解です。
デスクワークなど長時間同じ姿勢でいるのは、肉体的にも精神的にも悪いことずくめです。軽くていいので、1~2時間おきに体を動かすことを意識してください。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。