「日本の国民病」の一つとも言える「肩凝り」。中高年の多くが悩まされていますが、ここで問題です。「肩凝り」になった場合、整体やマッサージに通うべきか、通わなくてもいいか、どちらでしょう。
肩凝りでいちばん気にすべきは「大病の予兆」か否かです。肩凝りだと思っていたら狭心症だったり、くも膜下出血(前兆は後頭部の痛み)や大動脈解離だったという例もあります。そこで中高年になったら、肩の痛みが脳や心臓に関する大病かどうかを確かめる必要があります。まずは肩凝りと安易に考えずに素人判断は危険だと認識してください。
医学的に肩凝りとは「内臓やその他に病気がない場合における筋肉の過緊張による不快な症状」です。こうした症状では、肩の緊張を取ってあげれば治ります。つまり、肩凝りの原因をなくすのが先決なのです。
現代の肩凝りの一番の原因は「パソコンに向かう際の姿勢」になります。肩凝りになるようであれば、パソコン周りの環境に原因があるかもしれません。椅子が低ければ高くする、意識して背筋を伸ばす、デスクトップが遠ければ近くするなど「肩に優しいパソコン環境」を作ることが重要です。
また目の神経が疲労すると、目や頭の周りにある筋肉や首筋の筋肉が緊張し、肩凝りにつながります。例えば、眼鏡が合わない、視力が悪く目を細めるなどが原因となりますので、インターネットページやテキストを大きくするなど、パソコンが見やすい環境を作ってください。左右の視力が異なる人や乱視の人は、物を見る時に左右どちらかの目に偏りがちです。眼鏡をかけ始めてから1~2年たつと視力は変わりますので、年に一度はちゃんとした眼科で診てもらいましょう。視力に適した眼鏡にすると、肩凝りは楽になります。
こうした改善をしたうえで、初めて整体やあん摩指圧マッサージに通うべきなのです。
これらは業種により体への施術アプローチが異なります。あん摩指圧マッサージの場合、痛みや凝りの原因を突き止め、器具を使わずに筋肉の表面を揉んで血の巡りをよくしていきます。整体では骨盤や骨のズレを矯正して筋肉の凝りや疲労をほぐしていきます。
あん摩指圧マッサージは国家資格であり、「医業」とされています。時には病院と連携のうえ、医師の勧めのもと、指圧をすることもあります。医師が「適切な治療が必要」と判断した場合、健康保険も適用されます。
整体は国家資格ではなく、経験を積んで開業したり、民間資格で施術をしています。このほか、リラクゼーションマッサージやリンパトリートメントなどもありますが、医学界では「マッサージ類似行為」とされます。
医者の立場から言えば、やはり医療資格を持つ人のもとで施術を受けることをお勧めします。整体は医療行為ではないので保険は適用されません。きちんとした整体師に診てもらわないと時間とお金をムダにしてしまいます。
しかし、あん摩指圧マッサージの場合、患者との相性がかなり重要となります。Aさんが治ったからといってBさんが治るとは限りません。「名人」と呼ばれる人の施術といえど、患者との相性が重要となるため、どんな名人でも十人全員を治せるわけではないのです。相性のいい施術師は通った初日から痛みなしで治してくれます。以上を踏まえると“浮気”をしてでも「自分に合った施術師」を見つけることが肝心です。
なお、肩凝りに効く薬は存在しませんので、薬で治すという考えも捨ててください。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。