ヤクザの食卓において、注目すべき作法が「早食い」だろう。
「体育会の礼儀作法と似ていて、先輩を待たせてはいけないので、何か作業をしながらでも、誰よりも早く食事をかき込んでいきます。ところが、兄貴分も親分も同じように育っているから、年齢を重ねても食べるスピードがめちゃくちゃ早い。さらにすさまじいスピードで食べないといけないので、熱々の味噌煮込みうどんだろうと、かき込むように一気に平らげます」(上野氏)
早食いは食後に血糖値が上がりやすく、肥満などの原因になるので気をつけたいところではある。が、日頃の習慣によってヤクザの胃は強靱に鍛えられているので、早食いが原因で病気の症状が出ることはないという。
食事と同じく健康を維持するために欠かせないのが「睡眠」だ。厚生労働省が14年に発表した「健康づくりのための睡眠指針」には、「個人差はあるものの、必要な睡眠時間は6時間から8時間未満」と明記されている。「遅寝早起き」が主流のヤクザ業界にとっては最大とも言える課題だったが、最近ではヒョンなことから改善されていた。
「今までは早朝から活動することもあったけど、本当に何も事件が起きないから、いいのか悪いのかはわからないけど、ぐっすり寝られるようになったヤクザはけっこういるだろうな」(三次団体組員)
一方、飲食店では分煙が進むなど、愛煙家にとっては肩身の狭い思いをする「たばこ問題」だが、ヤクザ業界はどう対応しているのか。
「健康のために親分が禁煙を始めたら、右にならえで組員も事務所内で吸わなくなる。外では吸ってもいいんだけど、本数はだいぶ減ってきたかな。それでも酒を断つ親分は少ない。酒豪は男の器量でもあるから、酒に弱くなったと思われるほうがプライドが許さない」(三次団体組員)
親分世代では太く短くという考え方も多く、
「俺はいつ死んでもいい」
と豪語する親分も珍しくないが、それでも苦楽を共にした兄弟分の死を目の当たりにすると‥‥。
「突然、『今日から和食だ』なんて言いだすので、若い衆は大変ですよ。とにかく体にいい有機野菜を探して、サプリメントも飲むようになる。それでも不思議なもので、健康志向になったとたん、コロッと逝ってしまうんです」(上野氏)
周囲に迷惑をかけないピンピンコロリの人生も、ヤクザの美学かもしれない。