ピンコロの鍵となるものに「コーフン」もある。いわゆる「腹上死」もそうだが、他にも死に至るコーフンはある。「夫婦ゲンカピンコロ」がその一つ。
70代前半だったAさん。タバコは好きだが酒は飲まず、やや高血圧なくらい。子供は独立して、夫婦2人の生活。妻との仲は悪くなかったが、ある晩、些細なことで夫婦ゲンカとなり、そのコーフンの最中、Aさんは倒れた。駆け寄る妻に「お前の世話になんかなるか!」と言い放ち、タクシーで地元の小さな病院へ。ところが着いたらもう意識はなく、半日後に亡くなった。本当に奥さんの世話にならずに、あっさり逝ってしまったのだ。死因は心筋梗塞。米山氏は、
「大病院でなく、タクシーで小さな病院に行ったのが生死の分かれ目ではないか」
と推測する。これが救急車だと、多くは大病院の救急センターに運ばれ、意外に助けられてしまうのだ。私の父親も、突然気を失った時に気が動転しすぎた母親が体を揺すって起こそうとするなど、なかなか救急車を呼べなかった。
かつて数人の医師に「どうしたらぽっくり死ねるか」と尋ねた際、皆が「急な異変で救急車を呼ばないことですよ。延命のベルトコンベアに乗ってしまうから」と答えた。救急車は「生かす」ためにあるからだ。ただし、前出・米山氏は、こんな現実も指摘する。
「家で脳梗塞や心筋梗塞で倒れて、発見者が放置するなんてできますか。やはり救急車呼ぶでしょ。でなきゃ、殺人になりかねない。そううまくピンコロなんてできません」
その結果、こうした病気で倒れても、死亡率は1割未満。特に脳梗塞などは、生き残って後遺症に悩まされるケースが少なくない。
ではどうするか。「事前指定書」というものがある。病気などで意識がなくなり、自分の意思を伝えられなくなった時のためのものだ。どんな治療を望む、あるいは拒みたいかが書かれたもので、これによっていたずらな延命治療を受けず、よりスムーズな健康寿命死を遂げることも可能になる。
ところで、ピンコロ往生を目指すなら、どうやら長野県に住むのがいいらしい。長野が発信地となっている「PPK(ピンピンコロリ)運動」なるものがある。ラジオ体操の改良版というか、ラジオ体操をしながら足首のツボを押したり耳を引っ張ったりするものだ。漢方を含め、こうした東洋医学的なアプローチのメリットは、ピンコロ往生にとって大きいという。
さらには、「粗食=長生き」のイメージを覆す調査結果も。ある研究所が東京と秋田に住む65歳以上の1500人を対象に、10年間にわたってライフスタイルと長寿との関係を追ったところ、粗食は健康を害したり、寿命を縮める可能性が高いことがわかったという。「健康な長寿者」に共通していたのはタンパク質をきちんととっていたこと。「肉食=悪」ではなく、粗食はピンコロの敵なのだ。
◆山中伊知郎(健康ジャーナリスト) 1954年生まれ。著書に「ぽっくり往生するには」(長崎出版)など。友人たちと「ぴんころ倶楽部」なる団体を設立し、ピンコロ往生を実現した人たちのエピソードを集めたブログ「ピンコロ往生伝」を運営。10月4日(火)に新宿・ゴールデン街「ビッグリバー」にて午後7時から「ピンコロ往生を語る会」開催。どうすればピンコロ往生できるかを、徹底的に語り合う。参加者募集中。