日本酒がおいしい季節になってきたが、古来より、我が国では“百薬の長”としてもてはやされてきた酒が健康の敵だという。アルコールが身体にいいことは何もないというのだ。
このたび、WHO(世界保健機関)は「アルコールが原因で世界で毎年300万人以上が死亡している」とする報告書を発表した。WHOによると、アルコールの過剰摂取が原因で死亡する人は毎年300万人以上に上り、その7割以上が男性だという。アルコールの過剰摂取による死因のトップは、交通事故や自傷行為で全体の28%を占めるのだが、次いで消化器系の疾患や心臓血管系の病気が占めるそうだ。そして世界でおよそ2億8000万人がアルコール依存症などアルコールと関係する病気に苦しんでいるというのだ。
「漢書・食貨志下」には中国、新朝の皇帝、王莽の言葉として「夫れ塩は食肴の将、酒は百薬の長、嘉会の好、鉄は田農の本」と酒を称えている。また、国立がん研究センターの調査では、適量の飲酒を続けている人では、脳卒中の発症が4割低下することが示されてもいる。同センターでは、その理由をこう述べている。
「アルコールの作用で善玉コレステロールであるHDLコレステロールの血中濃度が上がることや、血液が固まりにくくなることが挙げられる」
しかしこれも適量を守っている場合に限られるようで、「徒然草」にも「百薬の長とはいへど、よろづの病はさけよりこそおこれ」とある。
このあたりの事情を江田内科クリニックの江田正院長が言う。
「ビール中瓶(500mL)1本、日本酒1合(180mL)、赤ワイングラス2杯(200mL)、焼酎半合(90mL)くらいが適量とされます。しかし、最近のWHOの発表によれば、アルコール飲料で『安全な』量というのは存在しないといいます。確かに体の調子が上がらない原因が飲酒というのは多い」
酒は飲むなという説にも、それなりの説得力はあるとはいえ、やはりほどほどには嗜みたい。
(谷川渓)