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五木寛之×椎名誠「僕たちはどう死ぬるか」(7)死を意識したら延髄が固くなった

五木 椎名さんはリアリティをもって自分が死ぬと感じたことはありますか?

椎名 かつて一度だけ、外国で。馬で雪の積もった大きな山を目指したときに、「馬は上に逃げようとするから絶対に行かせないように」とさんざん言われてたんですが、うっかりして気がついたら馬が道を外れて上に登って道がなくなってしまい、馬は左側から乗り降りするんですが、左は谷になっていて降りられない。で、逆に降りようとすると馬は暴れて、これは馬と一緒に谷底に落ちて行くんだと初めて死を意識しましたね。

五木 死ぬのを意識したときは、どんな感じでした?

椎名 延髄のあたりが固くなるんですね。要するに首が回らない状態です。先に行ってたカウボーイが戻ってきてくれて助かったんですけど、しばらく馬もぼくも動けなかったですね。

五木 ぼくが死を意識したというのは、敗戦を今の北朝鮮で迎えたときかな。大混乱のなかで、死なんていうのは日常だった。延吉熱とか言ってたけど、発疹チフスが旧満州のほうから集団で避難しているところで蔓延して、朝になったら赤ん坊が死んでいたということがざらにあったんです。

椎名 沼津の菩提寺に椎名家の墓があって、墓は墓石の下に半地下の遺骨置き場がある日本の一般的な古いカロウト式の墓ですが、奥の薄暗いところに先祖たちの骨がある。死んだあと、こんな所に入るのかと思うとぼくは憂鬱なんですね。五木さんは死んだあと、お墓に入りたいですか?

五木 ぼくは墓はなしにしたいですね。できたら日本海の辺りに散骨してもらえればありがたいし、どこへ捨ててもらってもけっこうだと思っています。

椎名 墓をめぐる取材をしていて、大阪の通天閣のそばにある一心寺という寺で遺骨でつくった仏像を見ました。ここは昔から宗派にかかわらず誰でも埋葬した、いわば投げ込み寺だったそうです。戦前その時の住職がすべての骨を砕いて粉にしてそれを固めて遺骨で仏様をつくった。一体の骨仏で約20万人くらいが合祀されているそうです。

五木 遺骨全部を使うんじゃないんでしょう?

椎名 いいところの骨だけを使って残りはどこかに処分しているんだと思います。『江戸の町は骨だらけ』(鈴木理生著・ちくま学芸文庫)という本を読みましたが、大都市だった江戸はたくさんの人が死んでるから、江戸の地下、つまり都心には骨がたくさん埋まっているといいますね。大阪の骨仏を見ていて、自分の身内がこのどこかにいるんだと思うと、拝み甲斐があるというふうにも思いましたね。

五木寛之(いつき・ひろゆき):1932(昭和7)年、福岡県生まれ。作家。北朝鮮からの引き揚げを体験。早稲田大学露文科中退後、編集者、作詞家、ルポライターなどを経て、66年『さらばモスクワ愚連隊』で小説現代新人賞、67年『蒼ざめた馬を見よ』で直木賞。76年『青春の門 筑豊編』ほかで吉川英治文学賞。主な著書に、『朱鷺の墓』、『戒厳令の夜』、『風の王国』、『親鸞』(毎日出版文化賞特別賞)、『大河の一滴』、『人生の目的』、『運命の足音』、『他力』(英文版『TARIKI』は2001年度BOOK OF THE YEAR・スピリチュアル部門)などがある。02年菊池寛賞受賞。また『下山の思想』、『生きるヒント』、『林住期』、『孤独のすすめ』などのほか、最新刊に『七〇歳年下の君たちへ』。

椎名誠(しいな・まこと):1944(昭和19)年、東京生まれ。作家。79年『さらば国分寺書店のオババ』でデビュー。『哀愁の町に霧が降るのだ(上・中・下)』(81~82)、『あやしい探検隊』シリーズ(84年~)、『インドでわしも考えた』などの紀行文、純文学からSF小説、写真集など、幅広い作品を手がけている。90年に映画『ガクの冒険』を監督し、91年には映画製作会社「ホネ・フィルム」を設立して映画製作・監督として『うみ・そら・さんごのいいつたえ』(91年)、『あひるのうたがきこえてくるよ。』(93年)、『白い馬』(95年)などを製作。90年、『アド・バード』で日本SF大賞を受賞。『岳物語』『犬の系譜』(吉川英治文学新人賞)、『家族のあしあと』『そらをみてますないてます』などの私小説系作品も多い。

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